プロローグ

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プロローグ

 ──神世界(しんせかい)神集大広間(じんしゅうおおひろま)にて。 「お前がここに立つのは何度目だ──勇者、レイティアよ」  最高神ザリオスの怒気を含んだ声が静かに響いていた。──レイティア、そう呼ばれた私は後ろ手を縄で縛られ証言台に立たされている。  どうしてこんな状況になっているか。簡単に説明しよう。  私ことレイティアの生まれ持った天職は【勇者】だ。だから魔王を倒すべく、今まで人生の全てを注いで頑張ってきたつもりだ。だが返り討ちにあい死亡回数およそ三十回。魔王討伐回数およそ──ゼロ。  言い訳などするつもりはない。全力で戦って負けた、ただそれだけだ。毎月支給される給料を切り詰め、聖剣の育成につぎ込んだ結果、これである。 「……三十回目、ですかね。今回で」 「そうだ。……正直に答えよ、お前は毎月の支援金をなにに使っている」 「聖剣の育成と、余ったお金で全身鎧(プレートアーマ)に……」  そう答えた瞬間、まわりから飛び交う野次と罵声。 「嘘を吐くな! ならばなぜ勝てないんだ!」 ──それはこっちが聞きたいわ。 「この給料泥棒め! 恥ずかしくないのか」 ──そもそも勇者の給料が低いから、上等な武器が持てないんだよ。 「恥さらしが! なぜお前が勇者なんだ!」 ──誰も勇者になりたいだなんて言ってない。なんのチートスキルも与えず勝てると思ってんのか。 「ではみなさん、そこまで言うのでしたら神々の(あなた)方自らが魔王と戦ってみてはどうですか?」  私が大声で発した言葉に、答えるものなど誰も居なかった。しんと静まり返る大広間で、私に向けられているのは射殺すような冷たい視線だった。どこを見渡しても【地位】、【権力】、【名誉】、【保身】。私利私欲をむさぼり丸々と太った豚共の集まりに過ぎないのだ。 「というわけで、給料を上げてください。どの世界の魔王もあなた方が思うほど馬鹿ではない。着々と年月を経るごとに力をつけ、強くなっている。簡単に言い換えるとするならば、弱いままではないのです。その時代の流れに私達も順応しなければいつまでたっても負けて、」 「──貴様、神々が作りし聖なる力、【勇者】が魔王に負ける…とでも申す気か?」  明らかに最高神ザリオスの声音が変わった。低く地響きのように放たれた声はまさに、──殺気であった。 「もう貴様とは話す価値もないわ。今をもって勇者レイティアは【勇者】の職を解く。そして未来永劫、その魂は神界から追放することをここに提言する!」  ザリオスの言葉に沸き起こる拍手喝采。まさかここまで重い罰を与えられるとは思っていなかった私は、額にうっすらと冷や汗を浮かべていた。 「待って、待ってください! それはちょっと重すぎじゃないですか!」  ザリオスは答える代わりに、なにやら裏を含んだ意地悪い笑みを返した。そして遠ざかる背中に、前のめりになる私の腕には血が滲むほど縄が食い込む。  眩い光があたりに立ち込め、身体を包むように覆っていく。胃がひっくり返されるような酷い浮遊感に襲われ、片膝を床に付いた。 「……覚えてろよ、クソジジイ。世界ってのはなぁ…神々(あんたら)の思う通りにはならないってことを、教えてやるよ!」 「勝手にしろ。精々勇者に殺されないよう、気を付けるんだな」 ──ザリオスの発した言葉を最後に、私は糸がぷつりと切れたかのように意識を失った。 ◇◇◇  ん…… 暖かい ここはどこだ……?  ふと目を開けると漆黒の、いかにも高級そうな肌触りの良い布が顔半分に覆いかぶさっていた。うっとおしいそれを剥いだ手は自身の手にしてはあまりにも小さい。  ど、どういうことだ!? これじゃあまるで……  くすりと笑う声が頭上から聞こえ、何倍かの大きな手がおもむろに布を掴んだ。そして代わりに覆いかぶさったのはたわわに実った果実……いや、ふくよかな乳房だ。 「自ら欲しがるとは…父親(ヤツ)に似て強欲な子よ。流石は我が魔王リリベルの娘、セシリアだな」 「おのれ!!魔王めっ!(あぁーぅ、あーーぃ)」  発した言葉は今までのいかなる言語とも違っていた。気付けば私は本能で、ひしと乳房にしがみつき吸い付いていた。正直言おう、美味かった。  そして空腹を満たし、背中を叩かれ、げっぷをしながら悟った。 ──どうやら私は赤子……しかも魔王の娘に転生したらしい。
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