近いようで遠く、遠いようで近い

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 やがて空が紫色に変わり始めた。  寒さはやや強みを増し、マフラーだけの智樹は寒そうに身を竦めた。 「そろそろ帰ろうぜ」 「……うん。えと……ごめんね」 「いや、嬉しかったから……」  そう言って照れたように笑う智樹の顔を、朱莉はちゃんと見る事が出来た。 「あ、そうだ。これ」  朱莉は鞄の中からごく自然にプレゼントを取り出して、智樹に差し出した。 「あったの?」 「実は用意してた」 「そ、そか。ありがとう」  受け取る智樹の顔は、一層嬉しそうだった。  いそいそと包みを開け、中身を掌に落とす。 「……相変わらずセンスねぇな」  智樹は呆れたようにそう言った。その掌にあるのは、金属製のプレートがぶら下がったキーホルダーだった。そこに書かれているのは、根性の二文字。力強い墨字調のフォントや、その縁取りが金色である辺りが朱莉にとってはおすすめポイントだった。 「うるさいなぁ」  唇を尖らせつつ、普段のやり取りに朱莉はどこか安堵していた。 「でもありがとな。やっぱ、これが無いと誕生日って気がしない」  そう言いながら、智樹は嬉しそうに目を細め、キーホルダーをポケットに入れた。 「喜んでいいのかなぁ」 「良いからほら、帰ろうぜ」  首を傾げる朱莉に向って智樹はその手を差し出した。 「う、うん……」  朱莉は小さく頷き、その手に自分の手を重ねた。  そうして、ちょっと見つめ合ってから二人は歩き出した。  
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