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斎藤奈乃香が野口智樹に告白するらしい。
十二月のある朝、登校してきた佐竹朱莉は早々にそんな話を聞かされた。
「へえ、さすが」
マフラーを外し、紺色のダッフルコートを脱ぎながら、朱莉はニコッと笑ってそう答えた。
クラスメイトの視線には気づいていたが、反応を見せぬようにして椅子に座る。
智樹と朱莉が幼馴染であることは、クラスの誰もが知ることだ。
だが、イケメンと持て囃される幼馴染とは並んで立たなくなって久しい。
学年でもトップクラスの美人である奈乃香なら智樹の横に並んで立つにふさわしい。
きっとうまくいくだろうなと思いながら、気が付くと朱莉はお下げにした髪の先を指先で弄っていた。
思わず漏れる自虐的な笑み。
「あのちび助智樹がね……」
朱莉はぽつりとそうつぶやいた。
ちび助智樹。そんなことが言えたのはいつごろまでだっただろうか。
かつては近くで見下ろしていた幼馴染。だが、いつの間にか追い抜かれた。
カッコいい男子と噂される存在となり、遠い存在へ変わってしまった。
「ねえ、悔しくないの?」
誰かがそんなことを朱莉に尋ねた。
ニコッと笑って別に、と返す。
「私じゃ釣り合わないもの」
朱莉がそう言うと、クラスメイトは決まって言う。
「そんなことないよ。朱莉ちゃん可愛いよ」
ありがとう、と表面的には礼を言う。
内心で続ける言葉は、お世辞をどうも。
自分の事は自分が良く分かっているつもりだった。
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