近いようで遠く、遠いようで近い

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 二人で歩く下校なんていつ振りだろう。  智樹の隣を歩きながら、朱莉の鼓動はいつもより早いビートを刻んでいた。  一方で、なぜこのタイミングで激しいドジを踏んでしまったのか、という自責の念も半端な物ではない。真冬の冷たい水で洗った手は、今もちょっとかじかんでいた。  激しい気持ちの浮き沈みを悟られぬよう、朱莉は智樹の半歩後ろを歩いていた。  坂道を下りながら智樹はずっと無言だった。  朱莉も気軽に何か言える状態では無かったので、自然と黙ったまま歩く二人という絵図になる。  白い息だけがふわふわと二人の間を漂ったり、舞い散ったりしていた。 「コート、ちゃんとクリーニングに出せよ」 「……うん。そのつもり……」 「開ける前に言えば良かったな。走ったって言ってたのに」 「ううん、私が忘れてたから。ほんとゴメン。ズボン、大丈夫?」 「朱莉のコートに比べればな」 「よ……良かった」  大きく吐いた息は、白い塊となって一瞬舞い上がった後、そのまま塵と消えた。  折角の勇気もこんな感じで消えたのだわ、と朱莉は泣きたい気分だった。  もちろん、原因は炭酸飲料にあるのだが。 「やっぱり、炭酸って苦手だなぁ」 「いや、ジュースに罪は無いだろ」 「分かってる」  炭酸飲料の擁護に回った智樹をちょっとだけ恨めしく思いつつ、根本的な自分の間抜けさに朱莉は塵となってこの場から消えたい気分だった。 「なんで走って来たんだよ」 「え?」  智樹がふと足を止め、朱莉の方に体を向けた。  驚いて立ち止まった朱莉が見上げた智樹の顔は、随分と真面目にみえた。
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