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空気が張り詰める感覚に、一段と鼓動が早くなる。
急に顔が熱くなるのを感じながら、朱莉は何を言えば良いのか必死に考えた。
回れ、回れ私の頭。テストでピンチの時よりも必死で朱莉は考えた。
何を言えばいいのか。
どう言えばいいのか。
だが、スマートな回答は出てこなかった。どうにでもなれとばかりに朱莉は口を開いた。
「と……智樹に言いたい事があって……」
智樹の目が見開かれた。朱莉はさらに言葉を続けた。
「わっ……私ねっ。智樹の事が……あなたの事が……」
智樹の顔がスローモーションで真っ赤になっていく。
口をぎゅっと引き結んだのが分かった。
言わなきゃ、と思った瞬間。朱莉の言葉は喉につっかえた。
「っ……」
出て来い。ここまで来たなら出て来い。
朱莉は必死で押し出そうする。だが、言葉もしぶとく粘り腰を見せた。
ダメだ、ここで言わなきゃダメだ。
朱莉は必死で押し出そうと喉に力を籠める。心臓がバクバクと早鐘の様に鳴っている。息を吸うと引っ込みそうで、呼吸が出来なかった。頭がくらくらとしたが、朱莉は諦めなかった。
「……好きぃ……」
ようやく出た言葉は、蚊の鳴くようなボリュームだった。
その直後、大きく息を吸い込む。
肺に流れ込む新鮮な空気。同時に思考がクリアになっていく。気恥ずかしさがどんどんとこみ上げてきた。智樹の顔なんてとても見られなかった。
あまりに場当たり的で不細工な一言。あんなに色々と言いたい事が溢れていたはずなのに、結局出てきたのは蚊の鳴く様な一言だけ。しかも服は炭酸飲料塗れで、雰囲気もタイミングもまるっきりイケてない。
情けなさと悔しさで朱莉の目に涙がにじむ。
「……俺も」
「えっ……」
顔を上げると、目の前には真っ赤な顔をした智樹がいた。
「お……俺も好きだ……」
「ほんとに?」
智樹は大きく頷いた。
朱莉の目から涙が溢れ出した。それは情けなさとか悔しさの涙では無かった。
「な……泣くなよ」
智樹の慌てた声が聞こえたが、しばらく止められそうには無かった。
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