近いようで遠く、遠いようで近い

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 今日が智樹の誕生日であることを、何人ぐらいの女子が知っているのだろうか。  朱莉は自分のカバンに目を向けた。  小さなプレゼントがそこに入っているのは秘密だ。  毎年、朱莉は智樹の誕生日に小さなプレゼントを贈っていた。  些細ですぐ忘れられても構わないもの。  それを智樹はいつでも気軽な態度で受け取ってくれていた。 「センスないなー」 「うるさいなぁ」  幼馴染の儀式的なやり取り、という空気感は朱莉にとってありがたかった。 「昔からだから」  買うとき、朱莉はいつもそんな独り言を口にした。  言い訳は情けなくもあったが、同時にそれを呟くことで安心もしていた。  今年もせっかく買ったけど渡すべきじゃない。  自分に言い聞かせ、納得させたつもりだった。  だが、授業が始まっても、その日はまるで身が入らなかった。
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