近いようで遠く、遠いようで近い

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 今朝からずっとだった。  胸の中にもやもやとしたものが溜まり、いつしかそれは彼女の中から滲み出して、彼女の見る風景をもくすませていた。  学校から遠ざかれば、あるいはこのもやもやも消えてくれるかもしれない。  あるいは走れば、その勢いでくすんだ世界が晴れるかもしれない。  そんな思いから、彼女は走った。結論から言えば、それは無駄だったが。  走って走って、やがて息が切れて立ち止まった時、彼女は通学路にある公園の傍に立っていた。 「ああ、疲れた……」  冬だと言うのに体はポカポカしている。寧ろ暑いぐらいだった。  公園の片隅に立つ自販機が目に入り、朱莉は一本のジュースを買い求めた。  重たい音とともに受け取り口へ落ちてくるペットボトル。  固めの手触りは、中に炭酸飲料が入っている事を示していた。  ベンチに腰掛け、キャップを捻る。  シュッと軽やかな音と共に、甘い香りが漂った。  炭酸の泡が水面に浮かび上がってくるのを眺めてから、朱莉はボトルを口元へと持って行く。  一口飲んだ途端、朱莉は顔をしかめた。  口の中に刺激をまき散らすそれをどうにか飲み干し、軽く咳き込む。 「……ケホッ」  キャップを閉め直し、ラベルに目を落とす。 「そう言えば、炭酸得意じゃないんだった……」  それは、中学時代の智樹が愛飲していた炭酸飲料である事を今更気づいた。 「あの頃は、まだ一緒に登下校してたっけ……」  精々二年前のことが、まるで十年も昔の事の様だった。  朱莉が腰を下ろしているベンチに、並んで腰かけた事もある。  そこら中に智樹との思い出はあった。 「どうりでスッキリしないわけだね……」  ため息。見上げれば、まだ青い空が広がっていた。  色は濃くなっていて、夕方が近いことは感じられる。
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