近いようで遠く、遠いようで近い

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 涙を拭き、朱莉は立ち上がった。  自分の気持ちと向き合った今、無視することは出来なかった。  ベンチで膝を抱え、涙にくれていられるほど物分かりは良くなかった。  胸のもやもやは一筋の涙と共に流れ出し、彼女の視界は涙が残っているにも拘らずクリアになっていた。  ペットボトルを無理矢理詰め込んで不自然に膨らんだ鞄。  その下げ手を引っ掴んで、彼女は再び走り出した。  智樹に会ったところで何を話せばいいか分からない。  そもそも、まだ学校にいるかどうかも分からない。  今頃は奈乃香と手をつなぎ、下校デートの最中かもしれなかった。   それでも行かねばならなかった。  来た道を逆へ。先ほどは学校から彼女を遠ざけるのを助けた下り坂は、接近を阻む上り坂となって立ちはだかる。  うなじで感じるお下げの跳ね具合は、明らかに先程より元気だった。  智樹、智樹。  浮かんでくる単語はそればかり。  何一つ考えなんか纏まらないまま、彼女は走った。  上り坂なんて今や障害にもならなかった。   智樹はどこにいるだろう、と自分に問いかける。  告白と言えば体育館裏か? あるいは無人になった教室かもしれない。  校庭からは運動部の元気良い声が響いて来ていた。  あての無いまま、朱莉は校庭の横を走り抜けた。
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