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彼女の求める姿は、中庭にいた。
ベンチに腰を下ろし、ぼんやりと空を見上げている。巻いたマフラーで口元まで覆い、ブレザーのポケットに手を突っ込んでいる。
その横顔は、決して楽しげでは無かった。
「智樹!!」
朱莉の声に振り向いた智樹は、目を丸くして言葉もなく彼女を見つめた。
一方の朱莉も、智樹の顔を見て思わず目を丸くした。
見えていなかった側の頬には、真っ赤な跡が付いていた。
智樹の顔がくしゃりとバツの悪そうな笑顔になった。
「あ……朱莉? 帰ったんじゃ……」
「あ、うん。そうなんだけど……」
「随分、息切れてるな。どうした?」
「ちょっと、走った。智樹こそどうしたの?」
朱莉は自分の頬を指さしながら訪ねた。
その口調はさぞかし間抜けだっただろうと思いつつ、これは間抜けでも仕方ないとすら思っていた。
「……引っぱたかれた」
「……っぽいほっぺたになってるね」
犯人は明らかだ。
それだけに、わざわざ尋ねるのが意地悪いように思え、朱莉の口からは次の言葉がなかなか出てこなかった。先に口を開いたのは智樹。
「斎藤にさ、告白されたんだよね」
「へ……へえ」
自分でも呆れるほど不自然な相槌が朱莉の口から零れた。
「断った……」
「え? 何で?」
朱莉がそう言った途端、智樹の顔が憮然とした表情に変わった。
「……好きな奴がいるから」
ぷい、とそっぽを向く智樹。
「……そう……なんだ」
鼓動が大きく一つ跳ねた。
朱莉は胸に手を当て、それを落ち着かせるために一つ深呼吸をした。ふと気持ちが緩んだのか、朱莉の口から言葉が零れた。
「誰? その人」
言い終わるまでに自分の失言を悔いた朱莉は、慌てて言葉を継いだ。
「し……幸せ者だよね?」
「は?」
「だ、だってそうでしょ? 奈乃香さんてすっごく美人だもん。そんな人より選んで貰えるなんてさ、すごい愛されてる感あるじゃん……」
「バーカ」
さっきまで白かった方の頬も、今や真っ赤になっていた。朱莉も自分の顔が熱くなっているのを感じていた。
「ったく……。変だぞ、今日の朱莉」
「そ、そう?」
とぼけて見たものの、誤魔化せるものでも無かった。
恥ずかしさのあまり、体内の熱量がグッと増したような気がした。
喉がカラカラになり、張り付くような息苦しい感覚を覚えた。朱莉はふと、鞄の中に入れたペットボトルの事を思い出した。
「なんか、喉渇いちゃって……」
誤魔化し笑い混じりでそう言いながら、朱莉はそれを鞄から取り出した。
「あれ、それ……」
智樹が何か言おうとしたのと、朱莉がキャップを握って捻るのは同時だった。
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