令和3年 ♪

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 出番を控え、バックステージから客席を覗くと、彼の復帰舞台を見ようと騒ぐ客と記者達が詰め寄っていた。  震える両手を彼は握りしめる。手のひらに押しつけた指先を見た瞬間、小さく叫んだ。 「何か仰いましたか?」  マネージャーが反応するが、首を横に振ると彼は不思議と落ち着きを取り戻していた。 (……そっちはどう?)  問いかけは風に流され、消えていく。琴の音色は聞こえない。  客席の向こう、丘の下に金色の稲穂が礼儀正しく並んでいるのを見つけた。一面の田圃が自分の観客だ。 (――全力で、一緒に楽しもう!)  少女と弦を弾いて擦った人差し指の傷を、彼は愛おしく撫でた。  舞台中央のピアノへと歩き出すと、少女のいる向こう側から、コロコロと笑うような音色が響いた。    ♪
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