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自宅の斜め向かいに古いアパートがある。
おそらく鉄筋コンクリート造で、3階建て、築年数は40年はいっていることだろう。
この斜め向かいのアパートだが、入口が分かりづらい。
いつも、自宅のベランダに出て洗濯物をしながら観察しているのだが、私の自宅と向かい合っている側は、そのアパートもベランダなのだ。隣りが駐輪場になっていて、駐輪場側は、一面が壁で、トイレか洗面所だろうと思われる小さな窓が、各階に1つづつあるくらい。常識的にベランダの反対側が入口だろうと、薬局へ行く際に、反対側をついでに見てみると、そちらもベランダなのだ。もう1面は、隣のビルとぴったりくっついていて、幅が30センチくらい。ここに入口があるのだろうか。
このアパートの入口が気になって、もう半月くらい観察している。
またある時も、ベランダで洗濯物を干す際、やはり目はあのアパートへ行ってしまう。
実はもう誰も住んでなくて、入口は潰してしまったんだろうか。それとも、隣りのビルとの合間に、やはり入口があるんだろうか。
そういえば、このアパートに明かりがついているのを、まだ見たことがない。
今まで1年もこの物件に住んでいて、さして気にしたこともなかったのに、こうなると気になって仕方ない。
また別の日、やはり洗濯物を干している時、劇的な変化を見つけた。
その斜め向かいのアパートの2階ベランダに洗濯物が干してある。やっぱり人がいたんだ。洗濯物の感じからして男性っぽい。そりゃそーだな。この駅チカの立地なら、貸さない手はない。借り手がいて当然だろう。
もっとよく見れば、どの階もカーテンを締めている。きっと、遮光カーテンで、あっちの光も漏れないのだろう。
そう考えながら、無意識にカーテンの隙間に目をやっていると、シャッとカーテンが閉まった。やっぱり人がいるんだな。
ここ2週間くらいの興味は、人がいることで急に失せた。
それから3日程、特に何ということもなく、ただ淡々と日々をこなしていた。
買い物から帰る時に、そーいえば最近郵便ポスト開けてないな、と急に思い付いて開けた。
マンションのチラシやピザや宅配関係のチラシがわんさか出てきて、その中に、真っ黒なはがきが入っていた。
つい、落とした。
他のチラシと一緒に掴んだから、くの字に折れたはがきがカタカタと風に揺れている。
あー落としちゃったと見つめながら、拾うこともないかなと、他のチラシだけ持ってそのまま部屋へ戻った。
気持ち悪いもん入ってたな、何だったんだろう。
何だったんだろう、と思いつつ、実際はよく見る前に落としたから、答えは出なかった。とはいえ、拾いに戻る程の事にも思えない。次第に、テレビとか見ている内に、なんかお葬式とかその類の広告だったのかなと考えて、そのままになった。
翌日、仕事へ行く際にさにげなく、しかし、しっかりとはがきを落とした所を見ると、跡形もない。あー誰か捨ててくれたんだと安心して、仕事へ出掛けた。
仕事帰り。コンビニでるんるん気分でデザート買って、自宅に戻った。
ポストの前を通って急に、また入ってないだろうか、と気になった。
で、開けたーーーーーー入ってた。
片面が真っ黒のはがき。
宛名の方は真っ白のまま。
そこで、ぞっとした。
片面真っ白って、直接ポストへ入れに来たの?はがきはくの字に折れ曲がってる。ーー昨日のはがきだ。え、それって宛名書いてないのに、落ちてたはがきが私宛って分かったの?え?
(うちはオートロック)
てゆーか、中に、いるじゃん。
急にオートロックが私と犯人を閉じ込めているように思えた。
とりあえず、足音を立てないように2階に上がって、そっとドアを開け閉めした。無駄だけど。部屋番号バレてるから。
でも、帰宅したか否かを知られたくない。あ、うちのカーテン遮光カーテンじゃないな、電気つけたら帰ったのバレるな。こーゆーのって、どーゆー状態になったら、警察に相談するんだろう。
仕方ない。まだ、はがき一枚だし。とりあえず、電気を点けよう。
電気を点けて、一人で憔悴してると、コンコンとベランダの方から音がする。
コンコン、コンコン。
ホラー映画だったら、絶対様子を見に行くとこだけど、私は絶対行かない!だって怖いし!ここで寝るんだから!
知らない!見ない!確かめない!
テレビを点けて、バラエティ番組を流した。
お風呂、どうしようかな。こーなるとお風呂も怖いな。明日の朝入ろうかな。
ん?音止んでる?
テレビを消音にして聞き耳を立てると、コンコンという音は止んでいた。
はー何だよ、怖かったじゃんよ。何の音だったんだろう。絶対確かめないけど、なんか、ベランダに置いてあるものが、風で窓に当たったんだろうか。
!、そういえば、はがき、持って帰って来ちゃった。
見ると手が真っ黒だった。
何だよ、まったく。
洗面所に行って必死に手を洗った。
まだその時は、あのアパートが関係しているとは夢にも思わなかった。
それに気づいたのは、はがきを持って帰って来てしまった翌日、洗濯物を干した時。
うちのアパートのベランダは、各部屋毎にボードで区切っている。そのため隣りの洗濯物は、あまり見えない。窓際に立って、洗濯物を干すことが多いから、余計に目に入ることが少ない。
その日は、何でか分からんがベランダに出て干していた。ふいに風が通って、気持ちいいなと思った瞬間、隣りの洗濯物も風に揺れて目に入った。
真っ黒だ。
急に気味が悪くなって、洗濯物を適当に挟んで部屋に入った。
揺れて目に入ったお隣の洗濯物は、タオルやTシャツ、靴下だったが、全部が真っ黒。
偶然なんだろうか。
でも、そういえば、あれから黒いはがきも入ってない。過敏になってるんだな、きっと。
何だか、繋がるようで、繋がらないようで、気味が悪い。ちょうど、更新の時期だし、もう引っ越してしまおう。
待てよ。
気になって、もう一度ベランダへ出た。
斜め向かいのアパートの洗濯物も、カーテンも無くなってる。
え?
ああ、もう、今は考えるの止めよ。
その夜、また始まった。
コンコン、コンコン。
テレビの音を大きくして、知らんぷりに徹する。
コンコン、コンコン、ゴトッ。
何か落ちた。
あーー見た方がいいかな。いっそ、そっちの方が安心するんじゃ。
カーテンの隙間から覗くと、小さなカメラが落ちていた。
へ?
ピンポーン。
マジか、今か。
インターホンを確認すると、画像は出ない。ドアのインターホンだからだ。うちのアパートはオートロック外しかカメラがない。
出れるかよ、誰か分かんないのに。
めっちゃ電気ついてるけど、居留守。
翌日、ポストにまたはがきが。
黒地に赤で、
「見られてる気持ち、どうですか?」
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