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苦い記憶をたどる彼の告発の数々に、私は胸焼けを起こし耳を傾けているのも苦痛だった。
少年は、途方もない孤独と辛苦の現実を生きていたのだから…。
バオの出生記録には《非嫡出子》と記されており、公営社交倶楽部のプリマボーカリストだった母親は未婚であった。
母親が夫‥彼の父親について触れることはなかったという。
少年バオは生まれてこの方、自分の父親というものを殆ど意識せずに過ごしていたようだ。
【長沢の爺さん】とは、
先の大粛清により公開処刑された元国防副長クロム・長沢氏…政権No.2にしてジン将軍の義理の叔父にあたる人物である。
長沢氏は軍人らしからぬリベラルな思想の持ち主で自由経済推進派として知られ、体制強化を図るジン陣営にとっての障壁であった。
熱心な芸術文化愛好家でもあり、大衆娯楽からアカデミックな分野まで広く厚く擁護し、気さくな人柄は多くの人々から親しまれていた。
ある国際親善のステージに於いて披露された女性の独唱に魅せられた長沢は、純粋な感動を花束に託して称賛した。
そのソロシンガーがバオの母親である。
彼女はこのステージをきっかけに、多くの仕事を抱えるようになった。
長沢は、しばしばバックステージを訪れては幼いなりに健気に母親を支えるバオを可愛がり、交流を深めた。
だが…。
それはジン陣営にとって、長沢を失墜させるに十分だった。
あらぬ憶測を利用しスキャンダルに発展させ、長沢の不正を捏造。バオの母親にスパイ容疑をでっち上げる。
体制派閥の争いに於いて真偽や是非は問題ではなかった。
政府要人とシンガーの親交は歪に取り沙汰され、中央機関ジン陣営は長沢とバオの母親をまんまと危険分子に陥れた。
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