崩壊

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崩壊

その日の天候は朝から快晴で無風状態だった。 創設記念日を迎えた現独裁政権“人民軍”を名乗る北部の軍隊は、国内外にその絶対権力を誇示するべく、国民中央スタジアムに於いて盛大なセレモニーを催した。 式典を華やかに彩るマスゲームはいよいよクライマックス…。 北の最高指導者ジン将軍と側近高官等は、この統制管理による治世を揺るぎないものと確信し歓喜に酔い痴れる。 スタジアム上空に颯爽と姿を現したエアロバティックス飛行隊。 観衆は迫力の模擬空中戦航空ショーを固唾を飲んで見守っていた。 隊列を外れた機体が観客席に向かって空砲を放ち白煙が上がる。 ‥‥スタジアムは一瞬にして緊張に包まれ、白煙が晴れると一斉に喝采と歓声に沸き立った。 そしてまた一機‥隊列を離れた戦闘機がスタジアム中央へと高度を下げ、主賓席に目標を定めた。 スタジアムに爆音が響き砂塵が舞い‥‥辺りは阿鼻叫喚の恐怖に包まれる。 実弾による機銃掃射が打ち込まれたのだ。 ‥‥逃げ惑う人々‥‥ 反政府軍の爆撃機は、防戦する人民軍の高射砲や機銃の弾幕の上を飛行し、高高度からの空爆を行った。 独裁政権が強固を誇った、将校並びに「政治委員」の二元指揮制度によるクーデター防御システムは、南部と親好の深い連合軍の強力な支援の基、憂国精鋭の志士等の情熱と叡智をもって脆くも崩壊に至った。 遊撃隊は式典スタジアムを一斉包囲、 観覧席に集う要人と参謀等に逃亡や抵抗の隙を微塵も与えなかった。 そして遂に北の最高指導者は改革派士官等の手によって拘束された。 一党独裁の栄華を象徴する建造物には雪辱のミサイルが撃ち込まれ、軍中枢機関及び特権階級の居住区は壊滅‥都市機能を失った。 幾度とない人事粛清に苦渋と辛酸の涙を噛み締めてきた反乱軍が、飢餓に喘ぎ寒さに凍える民衆の遺恨を胸に、 虎視眈々南部との結束を固め、熟慮断行に及んだ成果であった。 長らく分断された同民族間に国家統一が実現したのだ。 人権と自由、そして国家主権を取り戻した民衆は勝利に湧いた。 恐怖政治に怯えたこの地の人々に、 漸く真の自由と平和が訪れるのである…。
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