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子どもは必死に何かに縋ったまま怯えるばかりで、こちらがいくら宥め賺しても一向に出てくる気配が無い。
「あれ‥‥人の腕じゃないか?」
(‥ヒクッ‥ェッ…ぉたぁたン‥…)
子どもがすがる朽ちた枯れ枝のように見えた物は、瓦礫から伸びた薄い花模様の袖の女の腕だった。
「…気の毒に‥多分母親だぜ‥‥」
だが、今の我々には手の施しようもなく、ハイパー重機の到着を待つしかなかった。
「アンタ等、ミナミの兵士?」
いつ紛れ込んだのだろう…
ヤケに目玉ばかりがギラギラ輝る貧相な身なりの少年がひとり。
戦意無き白旗のつもりか‥薄汚れた布の切れ端を結んだ棒ッ切れを肩に担ぎ、少年は私に話しかけてきた。
「な、なんだお前っ!?浮浪児か!
避難指示に従わなかったのか!?」
「ナニ?ソレ‥」
「…よく無事でいられたなァ‥‥」
「地下‥‥マンホールに潜ってた」
「‥ぅわっ!‥‥臭ッセ…」
「そぉ?(笑)」
彼は垢の染み着いたシャツの臭いをクンクンと嗅いで屈託無く笑った。
「仲間は?他に助かったヤツいるんだろ?」
「ハグレで動いてンだ‥仲間なんているかよ。
それよか‥なんか食う物ない?」
私は雑嚢から残りのビスケットを取り出し手渡した。
「‥‥これっぽっちか‥‥チッ‥
あ~あ‥ツイてねー!
商店の奴等、何もかもゼーンブ持ち出してやんのっ!」
(コイツ‥どさくさ紛れに火事場泥棒狙ってやがったのか‥)
なんとも強かな浮浪児に呆れた私は、彼にいつまでも付き合う気にもなれず記録撮影の準備を続けた。
「手伝ってやろーか?」
「はぁ?」
「アンタじゃねーよ、アッチ」
少年は瓦礫の山を指差した。
「誰か閉じ込められてンだろ?
俺、中入って連れてきてやンよ♪」
「ム~リ無理!危険だ、止めとけ」
「伊達にマンホールを棲家にしてねぇっつーの☆(笑)」
言うが早いか、少年はスルスルと暗い隙間の奥へ潜り込んでいった。
…それから30分ばかり経ったろうか…
「(オッサン!!そっちから引っ張って!
ソッとだよ‥そ~っと…)」
彼は小さな赤ん坊を用心深く頭上で押し上げた。
なんと頼りなげな真綿のような女の子!
泣き疲れたのか、埃で汚れた顔に閉じた長い睫毛が涙に濡れスヤスヤと眠っていた。
「よくやった!!
スゲェなお前、大したモンだぜっ☆」
「斗吾はこの子達を救護センターへ。
メシでもたらふく食わせてやれ(笑)」
中尉は私に子ども達の担当を命じ、先に宿営地へ向かうよう指示した。
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