第七話

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そして、最後の曲は、ペトゥラクラークの恋のダウンタウンだった。 この曲は、シオリ母さんがとある映画で観て、大好きになった曲だ。 そこにいけば、賑やかさと楽しさが溢れていて、仲間がいて、辛いことを忘れさせてくれる・・。 といった感じの曲だ。 今なら解る。 きっと母は、この曲を心に仕舞ったままで、自分の辛さを重ねていたのかもしれないね・・。 シオリ母さん、もう大丈夫だからね。  最後の曲が終わって、拍手が鳴りやまないなか、アンコールの曲を行うことになった。 でも、今回のアンコールはリンコの出番のために用意した時間だ。 フルート一本で演奏する、ドビュッシーの月の光だった。 なんて、なんて素晴らしい響きだろう。 伴奏があった方が、演奏の厚みはあるだろうけど、リンコだけが奏でるフルートの音が、染み込むように心に響く。 リンコ、本当に優しく、そして強くなったね。 あんたの音を聴いてると、すごく心が軽くなるよ。 これなら、コンクールにも自信もって臨めるよね。 リンコの演奏後も、拍手は鳴り止まなかった。 そこで、私たちは全員でヘンデルのハレルヤコーラスを二回目のアンコール曲として演奏することにした。 演奏が終わって、溢れるほどの拍手のなか、私には、何よりも卯月双子姉妹の誇らしげな表情がとても印象的だった。 うん。 この娘たちなら、この先も大丈夫だ。 こうして、今回の私たちのサマコンである『礼拝堂と蛍の初夏コンサート』は大成功のうちに終わった。
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