ばた、ばた、ばた。

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ばた、ばた、ばた。

 どんなに仕事が忙しかろうと、家事をサボることはできない。面倒くさいと思いつつ、欠伸をしながらも掃除機をかけ、服を洗濯機に放り込んでガンガン回す。  そのあとゆっくり風呂に入って録画した深夜アニメなんかを見つつ遅い夕食を取る――それが平日の私の日課だった。パチンコ店の店員は本当に大変だ。特に遅番となれば、二時や三時に帰宅することになるくらいは当たり前である。そのまま昼まで眠って、昼に朝御飯を食べて少しだけまったりして出勤する。一般的な社会人とだいぶ生活ペースが異なってしまうが、仕事が仕事なだけに仕方ないと諦めていた。食っていくためには、これも割りきって頑張るしかないのだ。  幸いと言うべきは、私がこのアパートで一人暮らしであるといったところだろうか。家族がいたら迷惑をかけていたかもしらないと思う。家族は埼玉県、自分が今通っている会社と住んでいるアパートは東京都。実家から通えなくもない勤務地だったが、深夜勤ありのパチンコ店の仕事しか内定が貰えなかった時点で一人暮らしを決意したのだ。若い女の一人暮らしはちょっと、と渋っていた両親も三ヶ月過ぎた今は娘の頑張りを応援してくれているらしい。今でも電話をするたび、“友莉亜(ゆりあ)は空気が読めないから心配だわ”なんて未だに言ってくることだけは面倒だと思わないでもなかったが。 ――私ももう立派な大人なんだから。もうちょっとお母さんも信じてくれればいいのにさー。  明日は休みだ。少しいつもより遅く起きていてもいいだろうか。風呂から出て濡れた髪をドライヤーで乾かし、いつも通りカップ麺でも食べながらテレビをつけようとした時だった。  その音は唐突に、私の鼓膜を揺らしてきたのである。  ばた、ばた、ばた。 ――なんだなんだ、こんな時間に?  それは、何かの足音のように聞こえた。最初はゆっくりと歩き回るような程度。それが、私がテレビをつけたとたん一気に大きくなったのである。歩くような音が、天井を激しく走り回るようなそれに変わる。それも、一人や二人の人数ではないような。
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