ばた、ばた、ばた。

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 ***  ホラー系のドラマやバラエティも時々見ることはある。特集番組で、芸人達が大袈裟にやれポルターガイストがどうたらとか怨念がどうたらとか喋っているのを、ポテトチップスでも齧りながら眺めたことも、だ。  だから、こういう展開も予想していなかったわけじゃない。  翌日の十一時頃に起きて、管理人に連絡を入れたところ――まさにお約束とも言うべき返事が返ってきたのである。  私が住んでいるのは、アパートの202号室。  真上の302号室は現在空室で、誰も住んでいない筈である、と。そんな騒音が聞こえたなんてことが本当にあるなら、他の住人からも苦情が入っているはずだが、今のところそんな話は貴女以外からは聞いていない。気のせいだったのではないか、なんてことまではっきりと言われてしまった。  自分は本当に怖い思いをしたのに、なんて冷たい婆さんなんだ、と憤慨する私である。ただ、本当に空室ならば、まず気のせいだろうというところから疑いたくなるのもわからないことではなかった。あるいは、他の家の騒音が真上から聞こえたように感じてしまった可能性もなくはないが――。 ――や、やめてってば。事故物件だのなんだのって話は、バラエティとかドラマとかだからいいわけであって……そんなものの主人公に自分がなりたいなんて、思ったこともないってのに!  こうなっては、自分で様子を見に行くしかないのだろうか。私は辛うじて外に出られる服装に着替えると、朝食もそこそこに部屋の外に出たのだった。そこで偶然、共有部分の廊下を掃き掃除しているお隣さんと遭遇することになる。  初めてアパートに来た時に一度だけ挨拶したので、彼女のことは認識していた。四十くらいのおばちゃんと三十代の旦那、小さなお子さんの一家であったはずである。人とお喋りをするのが好きなのか、時折他の住人らしき人や近所の人と井戸端会議をしている現場を目撃していた。 「あのぅ……」  私が声をかけると、あら山本さんこんにちは、と笑顔を返してくれるおばちゃん。確か、名前は“芝園(しばぞの)さん”だったなずである。 「ごめんなさいね、煩かったかしら。自分の家の前に落ち葉が溜まってるのが嫌で、いつも勝手に掃除しちゃうのよ」 「あ、いえ。それは大丈夫なんですけど。……その、ちょっとお尋ねしたいことがありまして」 「あたしに?何かしら」 「もしかしたら眠ってらっしゃったかもなんですけど……」  深夜の時間帯だから、こんな聞き込みに意味はないかもしれない。それでも一応訊くべきことは訊いておこうと思っていた。あれだけ叩きつけるような足音がしていたのである。普通に考えれば、眠っていても目覚めそうなものだ。真下でなくても、お隣の家の彼女も相当やかましい思いをしているはずなのだろう。
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