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僕たちは、会場の端で食事をしていると、真昼がぼんやりと佇んでいた。どうやらお腹が空いていないらしく、さっきから何も食べようとしない。やはり稔ちゃんの幽霊を視てしまったことに、かなり精神的に来ているらしい。
「……ちょっと、稔ちゃんの所に行ってくる」
「え、おい」
真昼は僕の言うことも聞かずにそそくさと部屋を出ると、僕はそれを見てため息を吐く。すると、稔ちゃんの両親が微笑みながら僕に近づいてきた。
「久しぶり、海斗くん」
「お久しぶりです」
僕は軽く会釈をすると、稔ちゃんのお父さんが僕の頭をポンポンと叩く。
「随分と大きくなったね。大人になった。全然気づかなかったよ」
そう言えば、前に会ったときはもっと大きく感じられた稔ちゃんのお父さんも、今はそこまで感じない。むしろ目線が同じ高さになっていた事に驚いた。
「今大学生なんだっけ?」
「はい、今年大学2年生に」
「そう、前に会ったときは高校生だったから、立派になったわね」
僕は微笑で返すと、2人が「それじゃあ」と言って去っていく。僕はまた一礼をすると、空になった食器を置くと、真昼の後を追って部屋を出た。
真昼の姿は、案外早く見つけられた。
僕は真昼に近づくと、真昼が僕に気づき、先ほどまで笑っていた顔が一気に真顔になる。稔ちゃんと楽しく談笑していたらしい。僕はお邪魔だったみたいだ。
「悪い、邪魔なら——」
「いいよ、別に」
真昼がぶっきらぼうに言うと、僕は「そう」と言って、稔ちゃんを見る。稔ちゃんの姿は2年前より少し大人っぽくなっている。稔ちゃんが生きていれば、今頃大学3年生で、きっとこんな姿だったんだろうと思った。
稔ちゃんは僕を見るなり、パッと笑顔になると、手を挙げた。
「久しぶり、海斗くん!」
あの日と変わらない初恋の人の笑顔。僕はそれを見るなり、こくりと頷くと、はにかんでみせた。
「いやー、まさか私が視える人と出会えるなんて思っても無かったよ。しかもそれが海斗くんと真昼ちゃんだなんて」
稔ちゃんが嬉しそうに言うと、真昼が優しく笑って「私もビックリしたよ」と言う。僕が知らない真昼の顔だった。いや、正しくは久しぶりの真昼の笑顔と言った方がいいかもしれない。
「一回忌の時は、海斗くんたち視えてなかったよね? あれ、もしかして視えてるのに無視してた?」
「最近視えるようになったんだ。一回忌の時は視えてなかったよ」
「あは、そうなんだ。いやー、てっきり無視されていたかと……」
僕は苦笑を浮かべると、「真昼ちゃんも?」と稔ちゃんが真昼に尋ねた。真昼もこくりと頷くと、僕は心の中でやっぱりと思う。
「にしても、兄妹2人が急に視えるようになったなんて、面白いね。何か視える切っ掛けとかあったの?」
「それが僕にも分からないんだ。気づいたら視えるようになってたんだ。僕も最初は幽霊じゃないと思って接していたけど、どうやら違ったらしい」
「まぁ、見た目だけじゃ分からないもんね。皆が言うみたいに、透けても無いし。見極めるポイントは触れないのと、影が無いのぐらいじゃないかな?」
「ああ、僕もそれを最近理解したよ」
そう言って、ちらっと稔ちゃんの影を探すが、やはり幽霊なのか影は無かった。そこで改めて今僕の目の前にいる稔ちゃんは幽霊なんだということを知る。
2年ぶりの再会に喜ぶべきか、それとも悲しむべきか、とても分からない感情に揺られながら、僕はじっと稔ちゃんを見た。
「稔ちゃん、大人っぽくなったよね」
「そう?」
真昼の言葉に稔ちゃんが弾んだ声で言うと、一周くるっと回る。真昼がそれを見て、また優しく笑った。
「どう? 海斗くんもそう思う?」
「……まぁ」
「あは、照れてるな? もう、初だな~」
稔ちゃんが意地悪そうな笑みを浮かべると、僕は溜息を吐く。稔ちゃんのこのテンションも、通常運転なことにホッとした。
「本当に幽霊なんだよね……?」
「ん? そうだよ」
真昼が疑いの目で稔ちゃんを視ると、僕は真昼が何を言いたいのかが言葉にせずとも伝わった。
「……幽霊なのに、成長ってするの?」
真昼が稔ちゃんに向かって「幽霊」という言葉を使うことに躊躇いを持っているのはよく分かった。だが本人はあまり気にしていないように視える。
「んー、するみたい。私もビックリしたよ。それに幽霊って意外と凄いんだよ? 人には触れないけど、物には触れるの。だからソファにも座れるし、テレビのチャンネルだって変えられる。あ、食べたり飲んだりは出来ないけどね。でもお風呂は入ろうと思ったら、入れるんだよ? 後、服も着替えられるの。凄くない?」
稔ちゃんが興奮したように言うと、僕はそのことに心底驚いた。でも確かに、物に触れられなきゃポルターガイスト現象は起きない。
真昼は興味深そうな顔で、何度も頷くと稔ちゃんをまじまじと視る。あまりに視すぎて、僕は途中真昼に注意をすると、なぜかギロッと睨まれた。
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