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「ブラパン伯爵、結論を急ぐでない。まだ訊きたいことがあるのだぞ」
ユーリの言葉を無視してブラパンはさらに追求する。
「コットン、貴様のしたことは我等がカーキ=ツバタ王国を滅亡に導く大罪だ。極刑はまぬがれんぞ。いや、貴様だけではない、コットン家、貴様の一族郎党すべてに罪を償ってもらうからな」
その言葉を聞いてユーリはハッとする。
「コットン、手紙にあった[コトが起きたら動け]という意味は知らなかったのか」
「女王代行、まだ話している途中だぞ」
「大事なことだ、控えよ」
ユーリのただならぬ雰囲気にブラパンは追及の手を止める。
「コットン、今一度訊くぞ。本当に意味は知らなかったのか」
ユーリの問いに、コットンは慎重に考えてから本当に知らないとこたえる。
「女神フレイヤに誓ってか」
「女神フレイヤに誓ってです」
その言葉を聞いてユーリは傍らにいるゾフィに命令する。
「ゾフィ、すぐさまコットン家に赴き家族および使用人総てを拘束せよ。いない者がいたらその者を捕えにいけ」
「は、はい」
ユーリの剣幕に驚いたが、親衛隊長としての責務がすぐさま行動に移し、外に控えている部下に命令する。
何が起きたか解らないブラパン達はコットン追求の勢いをつい止めて、ユーリに意識を向ける。
「女王代行、いったいどういうことだ」
「コットン、そのルーディウスとやらには屋敷で会っていたのだな」
「ええ」
「手紙も何度か受け取っている、読むのは屋敷でだな」
「ええ。……あっ」
コットンはユーリが何に気づいたか解ったようで、驚愕の表情となる。それを見てをブラパン達は何かあったのは気がついたが、それが何かまではわからなかった。
※ ※ ※ ※ ※
しばらくして部下が戻ってきてゾフィは報告を受け取る。ユーリはそれを伝えるように促す。
「コットン家の者の拘束をしたところ、リネンという執事だけが行方不明でした。現在追跡中ですが今のところの見つかってません」
「そのリネンという者については」
「コーサク様と幼なじみで主従の間柄を超えて大変仲が良いと」
「そうなのかコットン」
すべてを悟ったのかコットンはうなだれて力無く頷く。
「使用人の証言によると、リネンはここ最近女と屋敷の外で会っているのを目撃しているとのことです。相手は誰だかはわからないと」
「おそらくその者が[繋ぎ]の役目だったのだろうな」
ユーリがため息をつくと背もたれに身体を預けた。
「女王代行、いったいどういうことだね」
ブラパンが問うと、ユーリは不愉快そうにこたえる。
「あの手紙はコットン宛ではなく、繋ぎの女経由でリネンに渡されるものだったということだ。ルーディウスという者は、コットンと関係を築くだけでなくリネンとも隠れてつくっていたのだろう。会いに来てひとりとだけ会うと思い込んでしまったのだ」
「あっ……そういうことか」
ブラパン達はようやく理解し、コットンを見つめる。とことんまで利用されてしまった彼を見て、さすがに同情した。
ユーリは考える。
(ルーディウスとやらが何者か分からぬが、ここまでやってくれると顔を拝んでみたくなるな。今のところリネンが鍵か。捕まって証言を得てしまえばコットンが極刑になるのは確実となり、アンナにも累が及ぶ。それだけは避けたいが、追手をだしてしまったからな。ゾフィが気を利かせて逃がすか無き者にしてくれれば助かるが、そこまで期待するわけにはいかぬか)
ちらりとゾフィに目をやるが、どうかしましたかという顔を見て諦める。
(せめて罪をコットンだけに止めなくてはな。さて、どうしたものか……)
とりあえず、リネンを捕まえ証言を得るまでコットン伯爵の処分は保留とし、屋敷で監禁ではなく王宮地下の牢屋に投獄となった。
※ ※ ※ ※ ※
そしてまだ誰も今日は食事をしていないので、シャイン・ロックの尋問の前に休憩を兼ねてそれぞれ食事をすることになった。
王宮の料理長はユーリのファンなので喜んで饗そうとしたが、さすがに食欲がなかったので簡単な胃にやさしいものにしてもらう。
「全貌がわからぬな」
ミルクスープに浸したパンをスプーンですくって食べながら、独り言のように呟く。
それを同席してサンドイッチを食べてるゾフィが拾う。
「どういうことです」
「色んな奴らの思惑が絡み過ぎて、流動的に状況が変わってしまうから方向が定めにくい。全貌がわかれば個別に対処できるということだ」
「はあ」
ゾフィが言葉を続けようとしたときだった。
「失礼します」
部屋の外で待機してた親衛隊のシータが入ってくる。
「どうした」
「さきほど平民議会の議長が訪ねてきまして、エルザ女王に面会をもとめています」
ゾフィが、あっという顔をする。
「そうか、平民議会があったな。エルザ女王様と平民が直接会う唯一の機会だ」
「それと、それだけでなく……エルザ女王様が崩御なされて王宮が乗っ取られているという噂があるが本当かと……」
「なんだと」
思わず立ち上がるゾフィにシータは怯むが、そう訊かれたとこたえる。
やり取りを聞いていたユーリはいったん手を止めたが、大きくため息をつくと一気にミルクスープを飲み干して立ち上がる。
「まったく次から次へと……楽しませてくれるなっ!!」
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