ユーリの応え

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「何を勝手に──おい、いますぐショージとかいうのを叩き出せ」  激昂したブラパン伯爵が衛兵に命令する。 「もう遅いだろうな。今頃はマリカがどういう経緯でそうなったかを説明している。おかげで”王国を乗っ取るため帝国からエルフが秘密裏に送られ、女王陛下は弑られたのではないか“などという根も葉もない噂を後押しすることになったがな」  ユーリが平然と言うのでブラパンは噛みつくように言う。 「貴様、自分が何をしたのかわかっているのか。己で悪評を広め、民衆に恐怖と不安を撒き散らしたのだぞ」 「致し方あるまい。人の噂は勝手に広まるそれも確かめようともせずにな。あえて確かめに来たショージ・キモノは信用に値する。ゆえに謁見を許し帝国が侵攻していることを話したのだ」 「て、帝国のことまで」 「ギルドの定期便が滞っているだろう、民衆はすでに気づいている。隠し通す方が国政の信用に関わると判断した」 「わ、我々に断りもなく」 「なにしろ急な来訪だったのでな。マリカにも女神教の信用を失わないようにエルザ女王の玉体を平民神殿に移すように指示した」 「な、なにぃ」 「ショージ・キモノが言うには神々の御業というものを見たことないらしくてな。そういう民衆のためにエルザ女王があのような状態になっていると見れば、マリカによる“女神フレイヤの御業によって治療している”という言葉を信用するだろう」 「バカなことを。やり過ぎだ。衛兵、いますぐそんな暴挙をやめさせろ、取り押さえるんだ」 「それはやめた方がいいぞ。すでにショージ・キモノに知られている。今頃は彼を後押しした平民議員に話していることだろう。皆が知っているのにそれをしなければどうなる。ましてや貴族が止めたと知られたら」  ユーリから直接聞いたショージ・キモノは、噂よりそちらを信用するだろう。ブラパン達がそれを止めれば、貴族たちに後ろ暗い事があるのではないかと疑われる。  そこまで読んだブラパンは、ユーリに対し小声で──女キツネめ──と呟く。ユーリはそれを聞こえないふりをした。  ここでカーキ=ツバタ王国の仕組みを簡単に説明する。  ここのところ全く出番の無い主人公クッキーが聞けば「五大老五奉行みたいなもんだな」と言うだろう。  つまり貴族達はそれぞれの領地と領民を持っており、その上で女王に仕えている。役職は女王の相談と各機関の長、大臣的な立場にいる。  一方、女王はそれ以外の民衆つまり平民議会のみが直轄の政治機関となるのだが、それ以外に2つの組織を直轄している。その1つがマリカ司祭長率いる女神教会である。ゆえにブラパン達の合意を得なくてもユーリは直接働きかけることができるのだ。  逆に言えば手出しができない。 「コットン元伯爵の喚問とギルマスの尋問は終わった。私はこれで失礼する」  ブラパン伯爵は憎々しげにそう言うと、さっさと議会室を出ていく。あとに残った貴族たちも後を追うように出ていってしまった。  衛兵達も出て、ユーリひとりきりになったところで、ゾフィが入ってくる。 「外で聞いていましたが……よろしいのですか、悪評を裏付けするようなことは」 「かまわん。べつに女王の座に興味があるわけじゃないからいくら嫌われても問題ない。ただエルザを助け出さないと[試練]を解決できないから一時だけ[信用]というのが必要なだけだからな。それより頼んだことは」 「お連れしました。どうぞこちらへ」  ゾフィの呼びかけに応えて入ってきたのは黒い法衣(ローブ)姿の年配の男と、ゾフィと同じ親衛隊の制服を着た少女だった。 「いつぞやは。あらためて紹介します。王室御用達魔導師会(ロイヤル・ウィザーズ)の会長を務めさせていただきますマジーク・ウィザド・ポールズです」  もうひとつの直轄組織[魔導師教会]から王族を魔術で補佐する王室御用達魔導師会である。 「ユーリ・アッシュ・エルフネッドだ。ゆっくり話したいところだが少々時間がなくてな。現状はどうなっているかご存知か」 「ええ。大体のところは。それで私めに御用とは」 「協力を頼みたい」  そう言うとユーリは計画を話す。 ※ ※ ※ ※ ※ 「ふぅむ」  マジーク魔導師は渋い顔をする。 「どうだ。やれるか」 「おそらくできますが……ユーリ様、御存知とはおもいますが敢えて説明させていただかせてもらいます。  [魔導師教会]はギルドの管理下にあります。商業を母体としたギルドにとって魔法は必要不可欠な代物ですから各地に教会を配置しております。我々[王室御用達魔導師会]は[魔導師教会]のいち部門。契約により王宮内にて女王陛下にお仕えするという[契約]している立場です。  が、王国全体となればどうしても[魔導師教会]の許可が必要となります」 「連中は今どう考えているのだ」 「あまり心良く思ってはおりません。というのも、[カイマ襲撃事件]にて[女神教会]による美聖女戦士の活躍と、その後の世界樹による防御壁の印象が強過ぎて、[魔導師教会]の活躍が目立たない。おかげで、魔術なんか大した事ないと民衆に思われているようで」  マジークは深いため息をついた。
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