ユーリの応え

5/7
前へ
/112ページ
次へ
 ユーリがマジークと取り引きしている頃、ブラパン伯爵の屋敷に貴族達が集まり話し合っていた。 「どういうつもりだあの性悪んエルフめ。悪評を流して外堀から埋めて女王の座の居心地を悪くするはずだったのに、自らそれを広める後押しをするとは」  怒り心頭のブラパンが豪奢な会議用テーブルを拳でどんどん叩きながら喚き散らす。  それを恐縮しつつだまって聞くしかない他の貴族達に、新参者の痩身ブラン男爵は同格の小男ゼリヤ男爵に小声で訊ねる。 「ゼリヤ殿、なにゆえ皆黙っておられるのです」 「頭に血が上ったブラパン様に意見をすると、とばっちりを受けるのでな。落ち着くまで待つのが常よ」  たしかに嵐のようなブラパンに飛び込むのは自殺行為だなと納得してブランは同じく押し黙ることにした。  怒鳴り散らすのをやめたブラパンは、黙って考えはじめる。  ──千載一遇の好機がきたというのに……。  昔から周りに下着小僧とかランジェリー伯爵などという不名誉な呼び名をされるのがイヤだった。たしかに我家の主産業で他国からの顧客にも評判が良く王国にも貢献している。だが私個人の自尊心(プライド)が、ひとりの(おとこ)としての矜持(プライド)は、それを我慢することはできなかった。  年頃になり、エルザが女王の座につき夜伽をして子がなったときには、やったと思った。これで父王になれると。しかし産まれた子マリカは女神と同化(シンクロ)できるほどの適合率だったが体力はなく、女王候補になるための条件美聖女戦士(バルキリー化)することができなかった。残念だったがしかしそのおかげで次期女王候補として頭ひとつ抜きん出ていたので、あとは凡百の子供しか産まれないことを願った。  だがコーサクの奴が、あの軟弱者から、適合率も体力も合格した娘をつくるとは。  マリカを女王にして後見人として政治を行いゆくゆくは女王国から王国に変えるという望みは潰えたかとあきらめ、女王を有名無実化して政権を握る方に変えた。  そしてエルザ女王か倒れ、帝国が攻めてくる事態となり、コーサクのバカが内通してくれたのが明るみに出て、今こそこの私が王の座につく好機だというのに……。── 「女ギツネが変わっただけではないか。忌々しいエルフめ」  猛り狂ってもしょうがないとようやく落ち着いたブラパンは深呼吸をして現状を整理する。  昨日から凡人貴族どもを巻き込んで、”王国を乗っ取るため帝国からエルフが秘密裏に送られ、女王陛下は弑られたのではないか“という内容を細切れにして、平民議員や影響力の多そうな者そしておしゃべりなヤツに、さりげなく耳にするようにして噂をばらまいた。  その効果は出ていて、同時に平民議長をギルマス尋問の頃にあえて確認するように仕込んでおいた。  それは成功し、エルフ抜きで尋問をできたのでコーサクに不利な証言を得ることができた。もうコーサクは失脚の道しかない。同時に後継者であった娘も失脚させる。  あとはエルフを追い出し、マリカを女王代行にしてこの私が後見人として辣腕をふるい、実権を完全掌握してからエルザを助け出せばよい。なんならこのままエルザを御神体化してそのままという手もある。 「……なんとしてもエルフを追い出すのが先決だな」  あらためて方針を確認したブラパンはようやく凡人貴族たちに目を向ける。 「民衆はどうしてる。噂はどの程度広まっているか」  これにはブラパンの腰巾着ともいえるタイツ子爵がこたえる。  貴族としての華はないが、謹厳実直な性格で王国の財務大臣を担う。細かい性格ではあるがそれに反して大男ゆえ、漢たるブラパンと並ぶと安心感がある。 「平民議会、大衆広場、いくつかの飲食店に商店街に手の者を派遣して聴き取ってまいりました。すでに半分以上の民衆が耳にしていると言ってよいでしょう」 「ふむ、予想より多いな」 「このぶんだと夜までにはほとんど知られるかもしれません」  タイツ子爵がそう言ったときだった。ふっと辺りが暗くなる。外を見ると先程まで明るかったのに夕闇のような暗さになっており、民衆のざわめきが聞こえてくる。 「なにごとか」 ※ ※ ※ ※ ※  平民議会の議長であるショージ・キモノはかわるがわるやってくる議員や近親者に説明をし続けることからやっと開放されてひと息つき、好物のニホンシュを飲もうとしたところだった。  ふっと辺りが暗くなる。外を見ると先程まで明るかったのに夕闇のような暗さになっている。何ごとかと外に出て空をあおぐと、信じられない光景が飛び込んできた。  天空にぼんやりとしたものがあり、それがだんだんカタチになってはっきりしてくる。 「あ、あれは……ユーリ様」  カーキ=ツバタ王国の上空に、女王冠(クイーンズクラウン)を戴き、エルザ女王のドレスを着たユーリのバストアップ映像が現れたのだ。  王国全体にどよめきがはしる。  外に出ていた者が気づき、屋内にいる者を呼んで空を指差す。  火を扱ってる者など手を離せない人々以外が天空を仰ぎ見る。どうなってるのだと口々に問うなか、その映像は微動だにしなかった。
/112ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加