ユーリの応え

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 ──天空に映る巨大なエルフの上半身──  [カイマ襲撃事件]が記憶に新しい民衆は、不安につつまれた。  すでに噂を聞いてるものは、噂は本当なのかと驚き、まだ知らぬものは何が起きたのかと不安になり、たずねて回る。そのため[不穏な噂]が加速度的に広まっていく。 ※ ※ ※ ※ ※  その様子を、ブラパン達貴族も明かり取りから顔を出して確認し驚愕していた。 「な、なんなんだあれは」 「わかりません。おそらく魔法のたぐいでしょうが、あのような魔法をみたことがありません」  タイツ子爵の言葉にブラパンをはじめ皆が言葉を失う。 「あのような大魔法を使えるのか……」  ブラパンは、エルザ女王がユーリに女王の座を任せた理由はこれかと勘ぐった。 ※ ※ ※ ※ ※  王国全体にどよめきが満たされた。そこへどこからともなく音が聴こえてくる。 「…… …… きぃ…… か…… よ……」 最初は不協和音のような不愉快さがあったが、だんだんとそれが[声]であることに認識できるようになってきた。 「……聞こえるか……カーキ=ツバタ王国の民よ……」  ユーリの声が王国にとどろく。 「我が名はユーリ。ユーリ・アッシュ・エルフネッド。いまはエルザ・クワハラ・カーキツバタより任命されて女王の代行を務めている」  それを聞き、民衆は大いに、驚き、動揺が増す。 「今日の昼ごろ、事実でない不名誉な流言があると耳にした。よけいな心配をさせたくないので王宮内で留めていた事実はたしかにある。だがそれと流布されている内容とはかけ離れているので、それを訂正しい今あるできごとを伝えよう」  ユーリの映像は王国の真ん中にある多目的広場の真上にあったが、それが北の方にゆっくりと移動して王宮の前あたりでとまりそのまま浮かぶ。  それを見た人々は、まさにユーリが女王の座にいるということを連想せざるをえなかった。 「……ことの起こりは[カイマ襲撃事件]までさかのぼる。100年に一度の未曾有の災害の伝説、まさかのできごと、そんな災害が起きても王国の衛兵たちはその役目を果たしおおいに貢献した。だがしかし凶暴な獣の如きカイマは数も多く、多勢に無勢となってしまった。  その状況をはやくに察した聡明なエルザ女王は、女神フレイヤに親衛隊を美聖女戦士(バルキリー化)させることを願い出てかなえてもらい、この危機から皆を守った。ともに戦った者やその戦いぶりを見た者もいよう。今こうして生きていられるのもそなた等の親愛なる聡明なエルザ女王と、守護神女神フレイヤ様の加護による親衛隊そして衛兵と勇士の者達のおかげなのだ。  だがその際、エルザ女王は無理をして体調を崩してしまった。本来なら休息してもらい貴族や平民議会にこの国を任せたいところである。だがそれができなかった。なせか?」  ユーリはここで一旦言葉を区切り間を取った。 「──はるか南にある海神ファスティトカロン帝国がカーキ=ツバタ王国に服従し帝国領になれといってきたのだ」  王国全体にどよめきが走った。 「帝国領になるということは、崇める神を変えるのと同じこと。その身をもって王国の民を守りし我等を守護した女神フレイヤではなく縁もゆかりも無い海神ファスティトカロンに変えるなどとはヒトとしてあらぬこと。エルザ女王はこれを断固として拒否した。  しかしだ、しかしなのだ、国力の差は歴然としている。国土だけでもこちらが1とするなら帝国は500、ましてや向こうは100年に及ぶ戦乱を征している。聡明なエルザ女王はなんとか外交でかわそうとしていた。なのにだ。帝国は4日前に侵攻を開始し、現在は5000の大軍をもってこちらに向かっている。その事実により傷ついた身体で激務をこなしていたエルザ女王はついに倒れてしまった」  どよめきが悲鳴に変わる。[戦争]などというのは何処か遠くでやっている絵空事であり、王国ではずっと平和が続くと思っていた民たちは、はじめて[戦争]は現実でその身に降りかかることだと実感してしまったのだ。 「だが安心せよ民たちよ。聡明なエルザ女王はただでは倒れなかった。それがこの私、ユーリ・アッシュ・エルフネッドを女王代行にすることなのだ。  [カイマ襲撃事件]でともに戦った者は覚えていよう、この私は巨大な精霊たるクチキ=ユグドラシル=シゲルと供にしていることを。  あの時、王国全体を囲んでカイマを撃退し、今なお王国を護る存在の森を創造したチカラを持つ、クチキ=ユグドラシル=シゲルのことを。  王国より西にある[世界樹の森]のあるじでもあるクチキ=ユグドラシル=シゲルは今まさに帝国軍と交戦中である。5000の大軍をたったひとりでおさえている、彼がいるかぎり王国に侵攻はない。私が女王代行をしているかぎりそれを断言しよう」 「なんだとぉ!! あの女ギツネ、何を言いだした!!」  どうなるのかとずっと黙ってみていたブラパン伯爵が天空に向かって怒鳴る。  それとは別に王国の民は絶望的な状況からの希望を伝えられたので、ユーリの言葉に耳を傾ける。
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