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「美咲。今日はママも一緒に掃除するって」
「うん! いっしょにやろ! おそうじ、しよ!」
美咲はべっしょり濡れたままの雑巾を片手に、廊下を拭き始める。麻美が笑いながら、美咲に声をかけると、娘も嬉しそうに笑った。
母娘が笑い合う光景を見ていると、なぜだか目頭が熱くなってくる。ごまかすように、ほうきをもつ手に力を込めた。
気持ち良く晴れた日に、家族三人で仲良く掃除する。それはきっと、あたりまえの日常だ。けれど俺は知っている。あたりまえの日常を送れることこそ、幸せなのだと。
明日には麻美の症状が悪化し、またふりだしに戻ったような気持ちになるかもしれない。でも麻美や美咲が笑っていてくれる限り、共に手を取り合って生きていけるだろう。俺達は家族なのだから──。
しばらく掃除していると、麻美は疲れたようで、床にぺたりと座ってしまった。
「麻美、疲れたか?」
「ごめんなさい、疲れやすくて……」
「気にすんな。掃除はこのぐらいにしておこう。埃があったり散らかったりしていても、生きていけないわけじゃないんだから。それより、お茶にしよう」
「わぁい、おやつだぁ!」
麻美がはじけるような笑顔で笑い、美咲も俺も笑う。暖かな家の中に、笑い声がこだました。
了
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