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寝込む妻
妻がある日突然、掃除ができなくなった。それは本当に、突然のことだった。
仕事を終えて帰宅すると、リビングが妙に荒れていた。もう夜だというのに、部屋は薄明かりのままだ。
「ただいま〜。うわ、何これ……?」
リビングがおもちゃ、絵本でいっぱいになっている。散らかしたのは3歳の娘だろう。普段なら妻がきちんと片付けておいてくれるのに、その日はあちこちに転がっていたのだ。
照明を明るくすると、おもちゃの山のひとつがぐらりと揺れ、そのまま足元に飛び込んできた。
「パパ! おかえりなさい!」
「美咲だったのか。パパ今は帰ったぞ〜」
娘の美咲が可愛らしい笑顔を浮かべている。美咲を抱き上げ、柔らかなほっぺたに頬ずりしながら、妻の麻美の姿を探した。
「おい、麻美。リビングが散らかったままじゃないか。これじゃ、ゆっくりくつろげないよ。昼間何してたんだよ?」
返事がない。おかしいな。普段なら美咲と一緒に笑顔で出迎えてくれるのに。
「美咲、ママはどこだ?」
「あっちで、ねんねしてる」
美咲はリビングの隣にある和室を指差した。
「ねんね? 俺が仕事で疲れて帰ってきたっていうのに寝てんのかよ、何やってんだよ……」
美咲を床におろすと、和室に視線を向けた。
その日は仕事でトラブルがあり、酷く疲れていた。家に帰ったら、好きな音楽でも聞きながら妻と一緒にお酒を飲もう。それを楽しみに帰ってきたというのに、妻は出迎えてくれるどころか、寝ているのだ。
「おい、麻美!」
和室の引き戸を開けると、毛布だけを被った妻が横になっていた。
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