亡霊の怨念

1/6
前へ
/138ページ
次へ

亡霊の怨念

「装着…」 衝撃音はまるでうめき声。 這い出てきた黒きラストアーマーは翼を広げ宙に浮く。 その禍々しさはこれから繰り広げられる惨劇を容易に想像させるには充分だった。 黒き男はエピを見下ろす。 エピは額に汗をかき、強ばった表情で"亡霊"を見上げていた。 「向かってくるなよ、俺はあんたとは戦いたくない」 亡霊はそんなエピを見て一言そう言った。 「ふざけんな…!俺は軍の"総隊長"だぞ!?黙って見過ごせる訳があるか!お前は…」 「いたぞ!あそこだー!!」 エピが言い終える前に付近で轟音を聞いた警備隊とラストアーマーを着た兵士が幾人か現場に駆けつけた。 「お前ら…!」 「コールアウト総隊長…!これは一体何が…」 刹那ー 警備隊らを眩い光が包み込んだ。 いや、"包み込む"などという優しいものではなく "掻き消した"と言った方が適切かもしれない。 光の後に間もなく爆音が鳴り響き、辺りの市街を巻き込んで一帯を吹き飛ばした。 呆気にとられたエピは冷や汗をかきながら再び上空を見上げる。 『スナイプジュピター』 ラストアーマーの基本武装、『スナイプスター』の上位互換で、翼を持つ『ラストアーマーII《セカンド》』を使いこなす者のみが使えるライフル型の兵器だ。 煙上げるその銃口が、亡霊から爆発した方向に向けられていた。 エピは驚いて言う。 「元々お前の国だぞ…?」 「これが俺の覚悟だ。中途半端な意思では、何も変えられない」 亡霊は淡々と言うと、少し間を置いて付け加えるようにエピに言った。 「あんたと会うのはこれで最後にしたい。この国から出ていってくれ」 そう言い残すと亡霊はどこかで始まっている戦火の方へ飛んでいった。 「ちきしょう…」 エピはその場に跪いてしばらく動けなかった。
/138ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加