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「神のご加護がありますように。アーメン」
黒色のシスター服に身を包んだ女性が厳かに口を開き、その手に持っているベルをチリンと鳴らした。このシスターはどうやら、今から旅立つ娘、三浦里帆を見送っているようだ。
里帆は長い黒髪を風になびかせながら、十二年間世話になったこの養護施設を、振り返ることなく真っ直ぐに前を向いて進んでいく。
(ようやく解放される)
里帆の胸の内はこの言葉でいっぱいだった。
里帆にとってこの養護施設は『クリスチャン』と言う隠れ蓑の中で、虐げられ続けた場所だったのだ。
里帆は六歳の時、交通事故で両親と死別していた。里帆の両親はどちらも一人っ子で、そのため里帆を引き取り育ててくれる親戚はいなかった。結果、生き残った里帆は養護施設へと預けられることとなったのだ。
さて、預けられたこの養護施設での日々は、幼い里帆にとって苦痛以外の何ものでもなかった。幼い里帆にシスターが言う。
「あなたは何と哀れで、罪深い子なのでしょう」
これは里帆が何か失敗をするたびに言われ続けた言葉である。
(私は悪い子。私はいけない子。だからパパとママと一緒の所には行けなかった)
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