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幼い頃から、走りでしか自己表現できない俺は、毎日運動場のトラックをぐるぐると競争馬のように回っていた。
そんな風に走ることしかできない俺は、夏帆と互いの友人を介して知り合った。
好きな子と距離を縮めたいと言う友人が、互いに友達を連れて遊びに行こうと好きな子に提案し、そこに連れて来られた友達が、俺と夏帆だった。
夏帆とはクラスも違ったので、俺は初対面だと思っていたけれど、夏帆にとっては違った。
『陸上部の滝川くんですよね』
にこりと穏やかに笑み、それが夏帆が俺に発した最初の言葉だった。
いまでも、初めて会った夏帆のことは写真のように鮮明に記憶に焼きついている。
夏にぴったりの、スカート丈が長い白いワンピースに、淡い桃色のサンダルと申し訳なさそうに麦わら帽子を被った夏帆は、濃い空色と大きく浮かぶ入道雲を背景にして、まるで青春映画から飛び出して来た純然なヒロインのように途方もなく美しかった。
いま思えば俺はあの瞬間から、夏帆に心を奪われていた。
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