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明日から三年生になる。
ようやくパズルが完成した。いや正確にいえばあと一ピースだ。
4999ピースを組み立てたパズルは、夏帆と初めて会った夏の風景によく似ていた。
濃い空色の中に逞しく大きな入道雲が浮かぶ青空の風景のパズルは、否応なく夏帆を思い起こさせる。
そう、あの夏の思い出を形に残したくて、俺はこれを作ることを選んだんだ。
そんな理由すら、忘れてしまっていた。
パズルの中の入道雲に、ポカンと開いた失われた穴は、夏帆を失った俺の心に開いた穴と同じように、ただどうしようもなく寂しく見える。
諦めたくなくて、部屋を引っ掻きまわしてくまなく探したけれど、最後のピースはついぞ発見することができず、作品はとうとう完成させることができなかった。
作品を作る喜びは、結局中途半端にしか理解できず、最後の一ピースが足りないことで、壊れた自分も元には戻らないような、そんな気がした。
そしてパズルの中の、あの夏の風景のポッカリと開いた穴から、麦わら帽子と白いワンピースを着た夏帆が、いまにも飛び出して来るような、ありもしない錯覚も覚える。
完成はしない。
けれど、これはこのままにしておくべきだろう。
中途半端だった自分への戒めとして。
きっと、夏帆という一欠片のピースがはまらないと、俺の心は永遠に完成しないような、そういう思いにも駆られる。
俺を埋めてくれるピースを当てもなく探すのか、それとも心が曖昧になるのを待つのか、答えを出すには、まだ時間が途方もなく足りない。
でも夏帆と最後に観た、あのマイ·ガールの主人公の少女のように俺も向き合わなければいけないと、強く思う。
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