2.恋語り

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2.恋語り

 その後に、大事な仕事相手だからと、改めて父から紹介された。  大広間に正座する僕たちの前で、あいつはいきなり畳に額を擦りつけた。 「お嬢さんと結婚させてください!」  父は、冷静だった。  父の右側には姉、左側には僕が座っていた。 「娘は一人しかおりませんが。⋯⋯貴方がご覧になっているのは、うちの息子です」 「えっ!息子さん?」 「ええ、娘はこちらです」  父は姉を手で示し、その後にあいつを見た。  姉は、見る者が恐れをなすほどに眼光鋭く、体もがっしりと逞しい。常日頃から体を鍛えるのが趣味で、空手も柔道も師範だ。  僕はと言えば、細身というよりは華奢。髪も目も肌も色素が薄い。女だったら、どんな男も一目で落とす美貌と言われてきた。 「どうしてもと仰るなら、娘と息子と両方娶られますか?それならかまいませんが」  目を丸くするあいつの前で、僕は立ち上がった。 「ふざけんな!くそじじい!!誰が男のところに嫁に行くんだよ!!しかも何で姉さんと一緒になんだ!!!」 「咲耶(さくや)、落ち着きなさい」  姉が、じろりと僕を睨みつける。マジで怖い。小さい頃から姉さんに勝てたことはない。 「我が家の伝統だろう。大日孁(おおひるめ)家の男子が婚姻の申し込みに来たなら、子どもたちを一緒に差し出すことになっている」 「そ、そんな昔話!!!」  衝撃のセリフを父の口から聞いて、騒ぎになったことが懐かしい。  その後、あいつは散々口説いてきた。  地方まで週末の度に会いに来る。家族への手土産も僕への贈り物も欠かさない。  それまでも、僕につき纏うやつは山ほどいたけれど、父が蹴散らしてきた。  だが、今度ばかりはそうもいかないらしい。 「大事な取引先なんだ。業界最大手だしな。まさか、お前を気に入るとは。血は争えないと言うことか」  父が顔を顰めて言う。  以前から、新たな仕事の為に家を出ることになっていた。  あいつのこともあって、渋る家族を押し切って一人暮らしを始めた。  引っ越した、とメッセージを入れたら、すぐに電話がかかってきた。 「大丈夫なのか?そこは安全なのか?なんで引っ越すって、すぐに知らせないんだ!」  スマホから耳を離したくなるほど、やかましい。  次の日の朝には、僕のアパートの前に立っていた。 「お願いだ、少しでも俺とのことを考えてくれないか」  そう言われて、嬉しかった。  素直にうんと言えない僕の頭を撫でて、あいつは額にキスをした。
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