絹子【釜焼き姫】

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 絹子はふと襟を正し、視線を下に落とす。 「でもねえ、ひどいもんでね、安珍様はあたしのところになんて戻ってこなかったの。約束の日になっても帰って来なかった。更に数日待ってみたけれど、音沙汰なし。ひどいでしょう。だから、」  絹子は扇子をジャッと鳴らし二、三度仰ぐ。  いいにおいの香の香りが客席一帯に漂った。  そしてスローモーションのようにゆったりと口を開く。
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