絹子【釜焼き姫】

10/68
前へ
/100ページ
次へ
 今は昔、ひとりの若い僧が奥州白河から遠く熊野詣りにやってきていました。  そう、名を安珍といいました。  夜も更けたころでした。旅の途中だった安珍はどこかで一晩休めるところがないかと探していた。しかしこんな山の奥、そうそう見つかるものじゃあない。それでもなんとか一晩泊めてくれる宿を探していると、大きな庄司の屋敷にたどり着いた。ここなら一晩くらいは泊めてくれるだろう。そう思った。 「ごめんください。すまないが今晩一晩泊めてはもらえないだろうか」  そう言った安珍は大層な美男であった。  庄司の女主人であった絹子は僧に一目惚れをした。  こいつだ。この僧を夫にしたい。  そしてこの屋敷で一緒に添い遂げたい。そう強く思ったのであった。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加