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『仏滅座』は麻布十番の三叉路、一本松を背にしてちょいと右へ左へと折れたところにある、仏滅の日の夜中にだけ現れるにわか演芸場だ。  明治の頃から続いているこの座は、ちょうど幽霊屋敷のような風体の一軒家で、ニ十人も入ればいっぱいになる。  中はいつも薄暗く、一年中ひんやりとしている。  床の木は腐っているところもあり、足元を確認して歩かないと床を踏み抜いて腰まで落ちてしまう客人も出るほどに、ボロかった。  幕は金色の地に松の木の刺繍。  その周りには手を伸ばして松を取ろうとする女が二人、黒い刺繍で縫われていてまるで踊っているようであった。
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