絹子【釜焼き姫】

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しかし、 「もし、そこの旅のお方。ここらで若い僧を見かけなんだか」  約束の三日になっても安珍は戻ってこない。  姿の一つも見えない。  心配になった絹子は通りまで出て行き安珍を見かけなかったか、通りすがりの人に聞き回った。  何人かに聞き続けていくと数刻、行商の男がこんなことを絹子に話した。 「若い僧ですか。それだったらこの道じゃなく、あっちの山道へ入って行ったのを見ましたぞ」 「山道へですか。なぜ山道へ。こちらへは来なかったんですか?」 「さあ、あたしにはそこまではわかりませんけどなあ。随分と急ぎ足だったので覚えているんですわ。この辺であんなに急いでいるお方はあまり見ませんしなあ、ましてやお坊さんが急ぐとは、なんぞあれですよ、この辺で退っ引きならない理由でもおありなんでしょうと思いましてな。しばし眺めていた次第です。それではあたしは先を急ぎますんで」  旅の男は早々に話を切り上げ頭を下げて道を行く。
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