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 入り口の横には太鼓が一つ。  夜中の一時半を回った頃からトンテテトンテテと耳心地のよい音を立てはじめる。  この太鼓を叩く役目を任されているのは次郎兵衞というおかめの顔をした小柄な男であった。  いつもリズミカルにに辺りを走っていて、忙しない。  客が迷わないように、道しるべという意味も含めて太鼓の音で場所を教えているのであった。それが次郎兵衞の唯一の仕事なのである。  客人が全員揃った頃合い、だいたい二時前後になると太鼓台から降り、夜の闇に紛れるようにして座の中に消えていく。  後に残されるのはただの空虚な闇であった。
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