仏滅座

序

「さあさあ仏滅に入ったよ。ああ忙しいったらありゃしない。休んでないでさっさと仕事しな！　タダ飯食えると思ったら大間違いだよこのポンコツどもが」

　景気のいい声と派手にパンパンと手を打つ音が仏滅座の中に響く。
　声の主はこの座の女将。名をキツネという。

　その声に押し出されるように、顔の色がねずみ色をした痩せ細った従業員らがせかせかと走り回る。彼らに生気は感じられない。

　キツネはその名の通り、キツネのような面長で切れ目、口元は常に意地悪に上がっている。

　性格は優しく面倒見もいいので従業員からは恐れられつつも慕われてるが、少々お口が悪く気は極端に短かかった。

　そのてっぷりとした体を隠すように召している着物は、常に紅色。
　その上には仕立ての良い銀色の羽織を羽織っている。

　喋らずふつうにしていれば一見大人しそうで清楚に見えはするが、一旦怒ると誰も手がつけられないほどに大暴れをするので、その辺りの塩梅を見極めるのが難しいところであった。