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『それでは友達よりも大事な人だったんですね、そのように見えました』
大事な人……?
会いたいって強く思う。会えないと辛い。苦しい。
これって大事な人ってこと?
『寂しいですね』
寂しい。改めて言葉にすると胸が締め付けられるような思いがした。
僕は『あの子』にまたね、って言った。
またね、って……言った。
『出会いと別れというのは不思議ですよね。旅をしているとよく思う。こんなふうに前触れもなく心惹かれる誰かに会ったり、物を見たり……』
旅は知ってる。知らない街に行くこと。
僕の知らない街に行くこと。
これだ、って思った。
『僕も旅したい』
涙みたいに自然に口をついて出た。
シズクという、男の人を見上げて言った。
『『あの子』にまた会いたい、ここにいたら、会えない……!』
『……え?』
『あの子』にまた会うためには、化け物のままじゃいけないと思った。
『もう川を見るだけはやめる。学校に行く……勉強する……僕』
シズクという人の腕を掴んた。
『人間になりたい』
涙がぼろぼろ溢れる。
自分が化け物って認めるみたいで苦しかった。
でも今の僕は人間じゃない。だから、せめて周りから人間だと思われるようになりたい。
『人間になってあの子にまた会いたい!』
『あの子』は人間がいるところにいる。だから人間になりたい。
世界に溶け込む人間になりたい。
普通になりたい。
『僕、人間になりたい……! 『あの子』に会いたい!』
シズクという人は僕の言葉を聞いて夜風みたいに優しく微笑む。
『そのときめき……素晴らしいですね。心打たれました』
肩につくくらいになった僕の短い髪を撫でてくれる。
『いいでしょう、あなたの願い、私が叶えてあげます。君が望むならきっとまたあの子に会える世界に連れて行ってあげましょう』
両手を優しく包み込まれる。
困ったように笑って僕を見た。
『だけどこのまま君を連れて行くと私は人攫いになってしまいます。誘拐です。誘拐はこの国では犯罪なので、根掘り葉掘り事情を問われ、旅を続けられなくなる。君に関わる人達に事情を説明しなければなりません。ですからまずは……』
その瞳はどこまでも優しくて広大だった。
不思議な人だと思った。
『君の話を聞かせてください』
名前は、と聞くシズクさんに、僕は小さい声で優月、と言った。
可愛い名前ですね、と彼は言った。
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