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 多分普通の大学生が映ってる。髪は比較的長めだけど。マダムが絶対似合うからセンターパートのミディアムパーマにしてって言って聞かなかった。こだわりもないしそうしている。大学の知り合いに何も言われないから普通ってことなんだと思う。  だから多分、僕は今、大体の人が納得するようなありきたりさの中で生きているはず。  僕はこのありきたりさを渇望していた。  喉から手が出るほど欲しいと願った。  この日常のきっかをくれたのは『あの子』だ。  鏡を見るとこめかみの辺りに薄い傷が残っているのが目に入る。  それで、僕は毎日『あの子』を思い出す。  相応に死んじゃおうかなと思った時もあった。相応に、生まれてこなければよかった、って、思った時もあった。自分の過去を思い出そうとすると嫌な気持ちになってしまうけど、僕は『あの子』を思い出すたびにいつも子どもだった頃を思い出した。  『あの子』、今どこで何をしてるのかな。  会いたいな。会ったら聞きたい。  僕、人間になれてる……?  普通かな? って。  なんか感傷的になっちゃって嫌な感じだったから鏡の前から居なくなる。  アップルパイを買ってこないと。 「ぜひ、ゆっくり行ってきて頂戴」  彼女は余所行きの格好の僕に向かってもったいぶったような言い方をする。ゆったりしたロングスカートを揺らしながら、僕のためにお店のドアを開けてくれた。 「いいこと、ユヅキ、ゆっくりしていくのよ、決して急がないこと!」  マダムは人差し指を立てて料理に美味しくなれの魔法をかけるみたいにくるくるする。すごく迷惑なことを平気で言うこともあるけど、こういう仕草の一つ一つになんだか惹かれる。こんなふうに歳を重ねられたらいいのにって思う。きっと僕はそうはなれない。僕はマダムみたいに特別な存在じゃないし。魔法は使えない。 「なんだか今日は、素敵な出会いがあるかもしれないわね」  外へ出ようとしたら、彼女が唐突に言う。  僕は後になって、この言葉についてもっと言及すべきだったと思った。 「帰ってきたらお茶会をしましょうね」  マダムの笑顔は、やっぱり可愛い。惹かれる。安心する。  僕、ここにいてもいいんだって思う。
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