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『僕は平気だから……崚は部活に行って?』
一体、何の理由があって。
彼は一人、苦痛に耐え続けているのか。
そもそも何故、自分に暴行する人間を庇うのか。
まるで、ひかるを助けたいと思う自分が悪者のようだ。
考えれば考える程、理解出来なくて。
頭がおかしくなりそうで。
「顔色が悪いよ」
崚が頭を振ったと同時、隣を歩いていた秋良が声を掛けてきた。
3限の授業を終え、特別教室から自分達のクラスへと戻っている今。
「……少し寝不足かなー。部活の日誌書いてると気分上がっちゃって」
そう返答して、笑った。
嘘では無い。
確かに昨日は言葉通りで、寝るのも遅かった。
「サッカー好きだもんね」
そう言って、秋良は柔らかい微笑を浮かべる。
自分以外とは全くと言っていいほど話をしない彼は、初めて会話をした時とは比べ物にならないくらい最近はよく口を開くようになった。
笑うようにもなったし、不機嫌な顔もする。
時折毒吐くこともあったりして、大人しい外見とは裏腹に面白い性格をしている。
無邪気で、時々意地が悪いが根は優しい。
どこにでもいる、ごく普通の男子高校生。
けれどそんな彼もまた、癒えない傷を負っていた。
入学早々に友人に裏切られ、学校中に広められた偽りの噂。
ひかるの様に身体的なものでは無いとしても、その心を引き裂くには十分だった。
『他人を信じられない。表面上の付き合いなんて器用なことはできないし……だから、俺には萩内さえいてくれればいいよ』
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