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1.
サッカーとの出会いは、小学校の部活動だった。
何気なく入部してみたら案外楽しくて。
好きになって。
それが高じて、この丘ノ宮学園高校に部活の特待生として難なく入学した。
毎年全国大会に出場している強豪校なだけあって、平日は他の生徒達が下校する中20時過ぎまで活動するし、部員の上下関係もしっかりしている。
今のところとても楽しいし、充実している。
最高の高校生活__なんだけど。
「……またいる」
そう呟いて、崚は脚を止めた。
また、と言った通り、それを見たのは今日が初めてではない。
最近、ほぼ毎日のように目にしていた。
放課後の部活開始前に、重々しい空気を纏いながら中庭に行く一人の男子生徒。
その後ろ姿はいつも猫背で俯き弱々しく、放置しないほうがいいのではないかと思わせる雰囲気を醸し出していた。
ずっと気になっていたのに声をかけられなかったのは、1年でレギュラーを貰えた自分が私用で部活に遅れたり、穴を開けることなんてできないから。
今日は、その部活がない日だ。
「萩内?」
不意に隣から名前を呼ばれ、我に返る。
「何してるの?帰ろうよ」
立ち止まっていた自分を、不思議そうに眺めているクラスメイト。
首を傾げている彼を前に、崚は悩んだ。
あの男子生徒を放っておけない。
そんな気持ちとは裏腹に、自分が勝手に過剰に心配しているだけの勘違いだったらと思うと相手を追いかけようか迷う。
「秋良……」
クラスメイトの名前を呼び、崚は答えを出した。
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