ガタンゴトン

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ガタンゴトン

「ガタンゴトン」 ひっきりなしに聞こえていた電車の音がしなくなった。最終電車が終わったようだ。 かなこにとってベッドサイドに置いてある目覚まし時計は、やらないといけないことは分かってるけど、見ないようにしていた宿題と同じだ。布団から半分顔を出し強く瞑っていた目を恐る恐る開けた。 深夜2:17を回ったところだった。 ため息をつき、力を抜いた。 私はベッドから起き上がると自分の関節すべてに石でもぶら下がっているのではと思った。 「寝付けないけど、身体は疲れているんだなぁ。」 同居している母親を起こさないため、ゆっくりと足音を立てないように歩き、リビングに向かった。 廊下を歩いていると足元から冷気を感じた。私は、久々に感じる冬の感覚が昔から好きで、新しい季節の気配にいつもワクワクする。 私は、キッチンの水道の蛇口を上げ、食器乾燥機の中からコップを取り出した。 寝付けない時は牛乳を飲むのがいいとネットで見たことを思い出し、冷蔵庫から牛乳を取り出し、コップ半分牛乳を注いだ。トリプトファンという成分が精神を安心させてくれるらしい。 「これで眠れるよね。」 そう言いながら牛乳を飲み干し、コップを洗って、かけてあったタオルでコップを拭き、乾燥機に戻した。 私はまたまたゆっくり静かに寝室に向かった。私はそっとベッドに横になり目をつぶった。 「1.4.7.10...」 私は寝付く時、1から順番に3を足していく。 数字に集中することができるし、寝付けたことがあるからだ。 この話を友人にした時、 「1.2.3...」で良くない?と言われたことがある。 「不眠症の人から言わせてもらうと、順番に数えると、寝付こうとしてから何分たったかわかってしまうじゃない。」と正論で返した。 「なるほどね、、でも足していくのって頭つかわない?まぁ、寝付けるならいいんだろうけど。人の感覚って違うね。」 そう言って不服そうにしていた友人の顔を思い出しつつ、牛乳に含まれているトリプトファンが全身に巡った3:12頃、私はようやく眠りにつくことができた。 「おはよう。」 リビングに入って開口一番母親が 「あんた、昨日夜中起きてたの?」 と機嫌悪く聞いてきた。 「うん、寝付けなくて。」 「困った子だね、そんな弱い子に育てた覚えはないのに。あんたの足音で起きるから、夜歩く時はスリッパ履くんじゃないよ。」 母親はぶっきらぼうに食パンを食卓に置いた。 「...。ごめんね。」 私は食パンを袋から出してトースターにいれ、 食パンに焦げ目が付くのをじっと見ていた。 パンは瞬きする毎に焦げて色づいていってるように思えた。 父親は、私が小学生の時に若い女といなくなった。それ以来母親は、「人は結局一人で死んでいく。好きな人と死ぬまで一緒に仲良くなんてないんだよ。」と事あるごとに言っていた。 強がっているんだろう。 本当は寂しいんだろう。 本当は誰かの胸の中で安心して眠りたいだろう。 私は母親のそばにいてあげよう。 私は小さいながらにそう強く思った。だから社会人になった今もあの時の自分への言いつけを守り母親と一緒に暮らしている。 しかしあの日から優しかった母は、日に日に物言いがキツくなり、私を含め、誰も寄せ付けなくなっていった。 「ちょっとあんた、パン焦げてるよ。馬鹿だね。ほんとに。」 眠すぎて目を瞑ってしまっていた。 私は慌ててトースターを開けた。 黒いパンが見えた途端、鼻をつく異臭が私にまとわりついた。
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