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キッチン
「これ、ここに置いておいてもいいかな?」
彼女は「ドールハウス」の寝室セットを箱から取り出しながらそう言った。
「集めると凄く大きくなりそうだから、私の家じゃ無理そう......」
「もちろん、良いよ。えーと......ここに置いておこうか」
僕はそう言ってリビングに置いてあるチェストの上を指差す。
その方が僕にも都合が良かった。「ドールハウス」が家にあれば、彼女をここに繋ぎ止めておく事ができるから......。
次の週末、彼女は大きな紙袋を持って家にやって来た。「ドールハウス」のリビングセットだ。
彼女が茶色と白の熊のキーホルダーを小さなソファーにちょこんと座らせた。
寝室と繋げると何だか本当の家っぽく見える。
未来の僕達の新婚の部屋を見ている様で、何だか僕まで嬉しくなった。僕の周りの空気もピンク色に輝いている様な気がした。
それからしばらくすると、僕達は一緒に暮らす様になった。
僕が残業中、気になって彼女に電話ばかりかける様になったからだ。彼女が家にいると思えば安心できる。
家賃も光熱費も全て僕が支払った。彼女の会社にも近くなったし、金銭的に彼女はずいぶんと楽になった筈だ。
月刊「ドールハウス」の第三号はキッチンだった。
彼女のドールハウスもだいぶ立派になってきた。
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