リビング

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 僕は彼女にドールハウスを買ってあげる事にした。  そう、毎月付録にパーツが付いていて、集めていくと少しずつ出来上がっていくというあの雑誌だ。全部集めるとなると、相当な金額になるという事だけど、別に構わない。僕はお金を沢山持っているから。  何よりも気に入ったのは、なかなか最後までたどり着けない、という事だ。そうすれば、彼女をいつまでも手元に置いておけるから......。  彼女と最初に出会ったのは、友人の紹介だった。  特に目を惹く様な美人では無かった。小柄な彼女は顔だけで無く手や足など体中のパーツが全て小さく、目なんかは豆粒の様だった。それでも他に何人か女の子のいる中で、彼女の周りだけ世界が違って見えた。騒めきに満ちた居酒屋の中で、一人だけ暖かい日差しの降り注ぐお花畑にでもいる様だった。体の線を強調した服を着て目の周りをしっかり描き込んだ他の女の子達や、女の子の気を引く為にわざと滑る様なギャグを連発している友人達が凄くくだらないものに見えてきた。  居酒屋を出たところで僕は彼女に声をかけた。 「良かったら、僕と付き合ってもらえませんか?」  彼女は小さな目を精一杯に広げて僕の顔を見あげた。  出会って数時間で告るなんてチャラい奴だと思われる。  でも僕はこのチャンスを逃す訳にはいかなかった。 「何でも好きな物を買ってあげるよ」  必死だった僕は思わずそんな事を言ってしまってから、しまったと思った。 「特に欲しい物は無いな......」  それから彼女は乾いたアスファルトの上を見つめると、小さな声で言った。 「私なんかで良かったら......」  週末を楽しむ喧騒で満たされた夜の路上で、彼女の周りに小さなピンクの花がふわりと咲いた。  彼女はいつも柔らかい色のワンピースとか、ふわりと広がるスカートをはいていて、ブランド品のバッグだとか靴だとかは好みでは無いらしかった。  彼女の欲しがる物といったら、小さなぬいぐるみだとか、動物のキーホルダーくらいだった。  僕がガチャガチャで彼女のお気に入りの熊のキャラクターのキーホルダーを出した時は手を叩いて喜んでいた。  もう一度トライして、今度は白い熊のキーホルダーを手に入れると、彼女の周りはオレンジ色に輝いた。  彼女は目が小さいから、小さい物が好きなのかな......。  僕には良くわからなかったけれど、彼女が喜ぶ事なら何でもしてあげたかった。彼女の周りの空気が柔らかな色彩に変化するのを見るのが嬉しかった。  月刊「ドールハウス」の初回号はリビングセットだった。初回号は、ミントグリーンに小花を散らした壁紙に白い窓枠の上げ下げ窓の付いたリビングルーム本体と、小さなソファーや本棚までついた豪華版だった。  彼女に手渡すと、彼女の周りはミントグリーンに輝いた。
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