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「いや別に絶対10年ってわけじゃ……」とぼそぼそ言っている彼を無視して、私は散らばっている謎のレシートをゴミ袋に詰めていく。 「てか年末の大掃除を手伝って、って言ったのは廣井(ひろい)くんでしょ?」 「そうだけどさ。あまりに清水(しみず)さんが容赦なくて」 「こういうのは思い切りが大事なんだよ」  私は足の踏み場もないほど物が散乱する床に目を向けたまま、彼に言う。  乱雑に重なった衣服を動かすと、私たちが通う高校の校章バッジが見つかった。「これ失くしたら反省文書かされるよ」と彼にバッジを手渡す。  掃除を始めて2時間が経った。  レシートや空きビンのように明らかなゴミはほとんど無くなってきたけど、まだまだ必要かよくわからないものが沢山ある。 「この謎のオブジェは要るの?」 「うん。それは両親が一昨年、海外旅行に行ったときのお土産なんだ」 「じゃあこのボトルシップは要る?」 「うん。それは親友が去年、16歳の誕生日にくれたプレゼントなんだ」 「じゃあこのサボテンは?」 「うん。それは僕が小学生の時、お小遣いをこつこつ貯めて買ったサボテンなんだ」 「長生きしすぎでしょ」  私は大きくため息をついた。  これじゃ永遠にこの部屋は片付く気がしない。 「廣井くん。キミはなんで掃除をするかわかる?」  私はサボテンを大事そうに抱えた彼に言う。 「本当に大切なものを見極めるためだよ。モノが多いと混乱するでしょ」 「でも僕は全部憶えてるよ」  全部、と彼はそう言った。  この足の踏み場もない部屋にあるもの全部を憶えていると言われても、にわかには信じがたいけれど。    でも、私はそれが真実だということも知っていた。
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