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 それは確か10月。昼休憩後の掃除タイムでのことだった。    教室の掃除を終えて後方に寄せていた机を元の配置に戻していた時、雷でも落ちたかのような轟音が教室中に響き渡った。 「あ、ごめん……」  クラスの男子が身を縮こまらせて謝っている。どうやら手を滑らせて運んでいた机を倒してしまったらしい。  そして、それは廣井くんの机だった。   「う、わー……」  周囲のクラスメイトたちは呆然としていた。  その机が他の誰かの机だったらこんな反応にはならなかっただろう。  しかしそれは廣井くんの机だ。  廣井くんはクラスでも有名な『片付けられない男』だった。    彼の机には様々なものがいっぱいに押し込まれ、傍目にも収まりきっていないのが一目瞭然だった。  少しでも刺激を与えれば机が爆発してしまうのではないかと周囲に危機感を抱かせたほどだ。「机がかわいそう」と机の身を案じる者もいた。  何が入っているかわからない。どれだけ入っているかもわからない。  クラスメイトたちはそんな未知の恐怖から逃れるため、彼の机に『ミニマル・ブラックホール』『四次元デスク』『無限の顕現』などと名前をつけた。  そして誰もが不用意に近付かないようにしていたのだ。  しかし、その禁はついに破られた。  ブラックホールは瓦解し、彼の机の中身は全て教室の床にぶちまけられたのだった。
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