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ギルの家庭事情
「全くこんな成績ばかりとって!! なんであんたはもっといい子になれないの?! 」
私は今、怒られている。成績がすべて5でなかった事で、だ。
今まで成績で4以下をとったことはなかった。しかし、それでも母は私を叱る。父はそんな妻に愛想を尽かして、逃げるように離婚した。私を置いて。
「次4をとったらどうなるか分かっているでしょうね?! 」
母は成績表を机に叩きつけて、私の部屋から出ていった。
幼稚園、小学生の頃は良かった。母は私をいい子だといって頭を撫でてくれた。しかし、中学生になった途端、母は私の成績に執着するようになり、5以外をとると私を叱った。
何度か教師に相談した。しかし何もとりあってくれず、自殺を考えるまでになった。その度、体の自己防衛機能が働き、死ぬことが出来なかった。
それが私、ギル・カルス。並外れた頭脳を持つ、悪魔体質者である。
「今日は三者面談だ。お前らの悪いところ、ビシバシ言っていくから、心折られるなよ」
「ったくよぉー。なんで今日なんだよ。めんどくせぇなぁ」
「おいデミート。お前の成績、なかなかのもんだぞ。成績表見た親父さんの反応、見ものだな」
「チッ、悪魔め」
こんなやり取りも日常だ。生徒達はだんだんとレッドに心を開き、信頼する者も増えてきた。
しかしそんな中、全く表情を見せようとしない生徒がいた。ギル・カルスだ。
「......さあほら帰った帰った。心の準備しとけよ」
-放課後-
ギルの番が回ってきた。最近レッドが気になっている生徒だ。
母親と一緒に入ってきた。
「よろしくお願いします先生」
「はい」
「......」
教室にいるときよりもギルの表情が暗い。母親と何かあったのは間違いない。
「さあ先生。早く成績を見せてください」
「は? 」
レッドは困惑した。普通は教師が出すのを待つだろう。
「......わかりました。こちらです」
ギルの表情が険しくなった。成績も関係しているということ。
「ありがとうございます。ええと............」
途端に母親の眉間にシワが寄った。
ギルの成績は悪くない。いや、むしろ良い。このまま働いて上手くいけば、年収700万は下らないだろう。
「ギル......また4......ふざけないで!! 」
母親は勢いよく椅子から立ち上がり、ギルを叱りつけた。教師であるレッドの目の前で。
「なんでまたこんな成績なの!! やっぱり......出来損ないね!! あんたなんか産まなければよかった!!! 」
その瞬間、ギルの中で何かが千切れそうになった。
レッドはそれを感知し、繋ぎ止めた。
そして母親の精神に入った。
そこで見たものは記憶だ。ほとんどがギルの成績のものだ。
それ以外はすべて怒り。ギルに対しての。
とても理不尽なものだ。母親は職場でパワハラを受けていた。それをギルで発散したのだ。
「おい......クソババア」
「はぁ?!! 」
「さっきから聞いてりゃいい気になりやがって......俺がこの教室で魔法が使えないとでも? 」
「ふん! 使えないでしょう? だって魔法で結界が張り付けてあるもの! 」
「どうだろうな? 悪魔の力は計り知れないぞ」
レッドは後ろに下げてあった机や椅子に手をかざすと、力を込めて握った。
するとそれらはガシャガシャと音をたてて丸く潰れていき、最終的には直径1m程の鉄と木の塊になった。
「......え? 」
母親は口を半開きにし、その塊を見つめた。
「どうだ? あれに混ざってみるか? 」
「悪魔!! 私に手を出したら即刻処刑よ! 」
「お前にその権限がないのにか? おかしな話だな」
レッドは次に母親に手をかざした。その次、母親を塊にぶつけた。
後は握るだけ。
「や、やめ......」
「お前には、その権限もない」
レッドは手を握り始めた。母親の体は徐々に塊にはまっていった。
「......止めて! 母さんを傷付けないで! 先生! 」
「っ!! 」
レッドは思わず手を放した。しかし、母親の呼吸は止まりつつあった。
レッドは少し考えた後。
「『戻れ時よ、記憶を置き去りにして』」
するとすべての配置が、レッドが成績表を差し出した時のものに戻った。
母親は自分の身に何も異常がないことを確認し、安心していた。
「ギル、なんで止めた? 」
「......分かりません。ただ、この人には生きていて欲しい」
私の唯一の家族ですから。
レッドは成績表を渡し、カルス家を帰らせた。
「母親が大事か」
もう夕日が眩しくなった頃、母親に肩を貸すギルを窓から見届け、レッドはその日の仕事を終了した。
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