第一話♯タイムスリップ!?

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第一話♯タイムスリップ!?

燐は何時ものように 部屋でイヤフォンをして 音楽を聴いていた。 その時、部屋をノックする音がしたので ドアを開けると 其処には母親が居た。 どうやら買い物に 行ってきてほしいらしい。 心の中で 少し不機嫌になった。 しかし、燐は買い物に 行ったっきり帰れなく なってしまった…… 燐が買い物に 行ってから二時間。 余りにも遅すぎる。 自分で行ってきて ほしいと言ったものの、 そんなに多い量ではない。 そして、 大して重いものでもない。 何時ものように 寄り道をしていた としても遅すぎる。 いつまでたっても 帰ってこない娘を 心配した母親は スーパーへ走った。 そこで見たものは  倒れた自転車と、 自分が頼んだ買い物が 入った袋だけだった。 娘の姿が何処にも ないのである。 「あの、 お聞きしたいのですが、 あの自転車の 持ち主を 探しているんですが」 燐の自転車を指して、 近くに居た女性に尋ねた。 するとその女性は とんでもない事を 口走った。 「その自転車に 乗ろうとしてた女の子は 後ろを見てなくてね 車とぶつかった瞬間 私の目の前から消えたのよ」 ☆゜+†+★゜+†+☆゜+†+★+゜+†☆ その頃の燐は 幕末の京都の壬生寺に居た。 「あの、大丈夫ですか?」 いきなり声を 掛けられた燐は 驚いて飛び起きてしまった。 そのために、 後頭部と背中に激痛が走った。 「あいたたた……」 〈あれ?この人着物?〉 痛む体を 起こしながら 的外れな事を考えていた。 そして、もう一度 声を掛けられた。 「大丈夫ですか?」 その声で 自分の世界から 現実に戻って来た。 「大丈夫です」 そう一言いってから 燐は目の前の人物に 突拍子も無い質問をした。 「すみませんが、今は 何年何月何日ですか?」 少し驚いた 様子だったが答えてくれた。 「文久三年の 九月十四日ですよ」 〈芹沢鴨が 暗殺される二日前!?〉 「有難うございます」 「あの、私も 質問してもいいですか?」 「はい、どうぞ」 考え事をしていた燐は 彼の存在を忘れてた。 「貴方は何処から 来たんですか? その髪の色といい、服装といい」 彼の言っている事は 尤もである。 なんせ、燐は茶髪に 白いワンピースという 現代では当たり前の 服装だが、此処は幕末。 異人と間違えられても おかしくない。 「信じていただけるかは 分かりませが、 わたしの話を 聞いていただけますか?」 話すしかない。 「いいですよ貴方の話を聴きましょう」 燐はホッとした。 「有難うございます。 では、先ずわたしは この時代の人間ではありません。 百五十年後の 未来から来ました。 それと 自己紹介がまだでしたね…… わたしは守山燐と申します」 燐は目の前の人物を知っていた。 新撰組一番隊組長、沖田総司。 しかし、 そこはあえて 訊く事にしたのである。 「これは、失礼しました 私は 沖田総司と申します」 「あぁ、新撰組の」 少し大袈裟に驚いた。 「新撰組? それはなんですか?」 〈そっか、この時は まだ浪士組だった!! 此処はどうすれば…… 未来を変える 勢いで話してしまぉうか?〉 しかし、この時代を変えるという事は 当然未来も変わってしまうという事だ。 下手をしたら燐は未来に 帰れなくなってしまう。 だが、そんな事はいいようだ。 〈そうしよう‼ 元々皆の運命を変えたいと思ってたし〉 意を決して、燐が口を開いた。 「あのですね、 沖田さん達は今は壬生浪士組と 名乗っていますよね? しかも、 〔壬生狼〕なんて言われている」 自分が未来の人間だと 説明するために話し始めた。 「何故それを?」 「ですから、未来から来た と言ったじゃないですか。 まぁ、それだけで 信じろなんて言いませんけどね。 此処まで話しといてなんですが、 信じろなんて初めから無理ですよね…… その証拠にわたしに 対する警戒心が丸出しですよ」 わからなくもないけど。 「……何故私が警戒していると 分かるですか?」 目の前の彼は不思議そうだ。 「未来は違う意味で この時代より危険ですから……」 「それは何故ですか?」 燐の表情(かお)を 見れば質問もしたくなる。 「この時代は、 刀を持ち殺したり 殺されたりしてしまう 時代ですが、皆さんは 志を持ち、 その志のために人を斬る、違いますか?」 「……」 沖田は何も言わなかった。 自分達のしている事が 本当に正しいのか 分からないのだ。 「しかし、未来では、 刀は持ちませんが だからと言って 安全な訳ではなんです、むしろ、 未来の方が危ないんですよ」 誰彼かまわずという 時代になって しまいましたから…… 何処か遠くを 見るような目をした燐。 「肩がぶつかったとか、 むしゃくしゃ してたからとか くだらない理由で、 落とさなくてもいい 命が奪われているんです」 「そうですか」 それを聴いた沖田は 少し悲しそうな 表情(かお)をした。 だからと言って 警戒心を解いた訳ではないが…… 「ですから、沖田さんが 警戒している事は すぐに分かりました。 傍から見れば、 ニコニコしてる沖田さんが 警戒してるなんて 思わないでしょうけど わたしには通用しません。 おっと、 話がそれましたね(笑) ですが、わたしの 言ってる事は事実ですし 浪士組……後の新撰組が どうなるのかも知っています」 「やはり、 信じがたい話ですね……」 そう言われることは 最初から分かっていた。 「では、今夜何が起こるか 言いましょうか? それが、当たれば、 わたしの話を信じて頂けますか?」 「う〜ん」 考えあぐねている沖田。 「分かりました 今夜何があるのか教えて下さい」 半信半疑ではあるが 訊くだけ訊こうと思ったみたいだ。 「浪士組の局長の一人に 芹沢鴨と言う人が居ますね?」 一応、確認する。 「ぇぇ、芹沢さんが 関係しているんですか?」 「そうです。 二日後、沖田さんたちは 芹沢鴨を暗殺します。 何も起こらなかった時は わたしを斬って下さって かまいませんが わたしの言っている事が 正しかった場合、 屯所に置いて頂ける様に 取り計らって頂けますか?」 沖田は自分の耳を疑った。 なんせ、燐は沖田を 真っ直ぐ見据えて “何も 起こらなかった時は わたしを斬って下さってかまいませ” なんて普通の女性なら言わないからだ。 「貴方はあっさりと、 斬って下さいなって言いますが、 死ぬのは怖くないんですか?」 つい聞き返してしまった 沖田は悪くない。 「はっきり言えば怖いですが この時代に来てしまった以上は 覚悟は出来ています。 敵とみなされれば斬られるのは 十分承知の上ですし、本当ならば、 最初にお会いした時に 斬られていたかも 知れなかったんですから」 淡々と話し続ける燐。 「でも、沖田さんは わたしの話を聴いてくれた。 それにわたしは、 自分が余り好きじゃないんです」 そう言った燐の目は 何処か悲しそうだった。 燐の思いも寄らない 言葉に先ほどまで 警戒していたはずの 相手を沖田は 自分でも知らずの内に 抱きしめていた。 体が勝手に 動いていたみたいだ。 「お、沖田さん!?」 さすがに燐も 驚いたようである。 「自分を好きじゃない なんて言わないで下さい。 私は、知らず 知らずの内に貴女に対する 警戒心を解いてしまっていたのに 貴女は気づいていなかったですね」 燐は今、間抜けな 顔をしているだろう。 「え……?」 「貴方を信じてみようと思ったんです」 沖田はニッコリと笑った。 「本当ですか!? 有難うございます」 目をキラキラさせながら 沖田にお礼を言った。 「クスクス 何だか可愛らしい人ですね」 沖田が警戒を 解いたので燐も 自然と警戒を解いた。 「取り合えず、 呉服屋に行きましょう 髪の色はともかく その服では目立ちます」 確かに幕末の京都で ワンピースは目立つ。 「そうですね ですが一つ問題が……」 「何ですか?」 「わたし、着物 着た事無いんです」 沖田は目を 見開いて驚いた。 「未来では洋服が 主流でしたので……」 「そぉですか…… なんなら私が 着付けして 差し上げましょうか?」 くすっ。 「えっ……えぇ〜」 冗談何だろうが そうは聞こえない 沖田の言葉に 燐が一歩下がった。 「い、いいですよ」 まだ呉服屋にも 着いていない上に、 そんな事をさらっと 言う沖田に燐は赤面した。 𖡼.𖤣𖥧𖡼.𖤣𖥧𖡼.𖤣𖥧𖡼.𖤣𖥧𖡼.𖤣𖥧𖡼 一方、 その頃の未来では…… 警察を呼んだり、 母親が泣き崩れたりと 大変である。 パトカーで来たのは 若い警官〔20代後半〕の 警官と 年配〔50代半ば〕の 警官だった。 若い警官は女性に、 年配の警官は母親に。 それぞれ聴く事にした。 「あの、 お聞きしたいのですが、 その自転車の持ち主は?」 母親は切羽詰まった 感じでその女性に聴いた。 「私の目の前で 消えてしまったのよ」 その場に居た 三人は「は?」と言った。 「それは本当ですか」 母親は今度は 泣きそうな顔をしたは 「ええ、本当よ 車とぶつかって その子を光が包んで、 収まった時にはもう…… 其処には誰も居なかったのよ」 「そうですか……」 若い警官は、 ただ驚いているだけで、 その女性の話を 信じる事にしたらしい。 それを少し離れて 母親と話していた 年配の警官は、 眉間にし皺をよせていた。 離れていると言っても、 声の聞こえる範囲である。 〈そんな事が 現実に起こるのか?〉 〈そして、 何故あいつは それを信じるんだ?〉 ぶつかった 車はすぐに走り去って しまったらしいと あの女性の証言した。 これでは手がかりが 少なすぎると 年配の警官は 小さく舌打ちをした。 彼の皺が先ほどより 少し深くなったのは 気のせいではないだろう。 このままでは、上司に 報告のしようがないのだ。 仮に、あの女性の 言う事が本当だったとしても 上司は納得しないだろうと 頭を悩ませた。 あまりにも、非現実的で 証拠も無いのに 信じろと言う方が 無理である。 ちなみに母親は 泣き止んだが、ずっと 娘の名前を呼んでいる。 まるで、壊れた ロボットのように 何度も何度も…… よほどショック だったのだろう。 若い警官も 年配の警官も そして話をした女性も いたたまれない 気持ちになった。 暫しの沈黙である。 それを破ったのは、 先ほどまで 壊れたロボットのように 娘の名前を 呼んでいた母親だった。 「あの、 もう帰っても よろしいでしょうか?」 年配警官の方を 向いて尋ねた。 「そうですね、 日も暮れてきましたし 色々あっ てお疲れでしょうから」 「はい、 有難うございます」 それは三人に 向けられた言葉だった。 「それでは 帰らせていただきます」 「お気をつけて」 母親を見送った。 「俺達も帰るぞ」 「そぉですね」  署に着いた二人は 信じてもらえないのを 承知であの女性が 言っていた事を 報告書に書いた。 家に帰って来た 母親は寝られず 椅子に座ったままだ。 燐と二人暮らし だったため一人の アパートの 部屋は広く感じた。
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