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第二話♯屯所へ行く
未来でそんな
大騒ぎになっているとは
知らず、
燐は沖田と二人で
呉服屋へ向かっていた
先ほどの
「着付けして
あげましょうか?」という
爆弾発言が
頭の隅に残って
居るためまともに
沖田の顔が見れずにいた。
燐が自分の世界にトリップ
している間に
どうやら呉服屋に
着いたようだ。
「こんにちは」
と言う沖田の声に負けず
店の奥から出てきた
女性は元気よく
返事をした。
「は〜い、おこしやす
ってなんや、
沖田はんやないの」
「何かひどいですね、
その言い方」
「そんなことあらへんよ」
「なんか
引っかかるんですが」
「気にせんといて。
今日はまた
どないしたん?
ほんまに
めずらしいやん。
沖田はんが来るなんて」
「実はですね、
この子の着物を
買いに着たんですよ」
そう言って今だ
俯いたままの燐を
前に押しやった。
「変わった髪の色やね」
彼女が燐を見て
初めて発した言葉は
それだった。
俯いたままのため
髪だけが見えるのだから
仕方ない。
その時燐の肩が
一瞬震えたのを
沖田は見逃さなかった。
「実はこの子、
祖父母が
異国の人なんですよ」
なんとも苦し紛れな
言い訳である。
しかし彼女は
あろう事かそれを
真に受けたらしい……
「そうなん?
せやから髪の色が
違うんやね」
「せやけど、綺麗な色や」
沖田のあり得ない話を
信じただけでなく、
髪の色が綺麗だと言った。
そんな事を
言われるとは思って
居なかったので、
思わず顔をあげた。
まさかこの時代に来て
「髪の色が綺麗」
だなんて言われると
思わなかった……
未来から来た燐も
タジタジある。
「あ、貴女の
黒髪の方が綺麗ですよ」
これは本音だ。
「いややわ。
そないな事言われたら
照れるやないの」
口ではそう言っているが、
実際は、燐の肩を
バシバシ叩きながら
嬉しそうだ。
「でも、ご両親は?」
「祖父母の仕事の関係で
向こうに残るそうです」
此処はもう嘘でも話を
合わせるしかない……
「そうなん?
大変やね……
これからどないするん?」
華は心配そうに訊く。
「いやだなぁ、
その為に私が
居るんじゃないですか」
ニコニコしながら話す沖田
その言葉に彼女は
あからさまに
嫌な顔をした。
「なっ!!
屯所に連れて行くん!?」
「そぉですよ、
燐さんもそれでいいと
仰っているので」
此処で質問が飛んできた。
「自分、
燐ちゃんゆうん?」
そぉ言えば
自己紹介もせずに
話していた事に
やっと気づいた。
「自己紹介もせずに
失礼しました」
深々とお辞儀をした。
「ええよ、
うちは此処の娘で
華ゆんよ
よろしゅう」
先に自己紹介
されてしまい
慌てて名乗った。
「お華さん、
かわいい名前ですね」
「おおきに、
燐ちゃんも
かわいい名前やないの」
「ありがとございます
お華さんは幾つですか?」
燐は失礼かと
思いながらも
歳を聞いた。
「うちは、
二十七や
燐ちゃんは?」
「同い年です」
まさかの同年代だ。
「そうなん?
せやったら敬語はなしや
それから
華って呼んでや」
「うん、
わたしの事も
燐って呼んでね」
いきなりタメ語で
話すのは大変である。
「あの、お話
終わりました?」
その呼びかけで
二人は沖田が
居る事を思い出した。
「すみません!!
沖田さん……」
「いえいえ、
平気ですよ
女性はおしゃべりを
しだすと、周りが
見えなくなりますよね」
その通りなので
言い返せない……
華はと言うとまったく
気にしていない様子だ。
「本来の目的を
お忘れですよ」
そう、此処には
燐の着物を
買いに来たのだ。
「そうでした!!」
「お華さん、
燐さんに三、四着
見立ててほしのですが」
「せや!!
燐の着物
買いに来たんよね」
「うん」
「それと、着付けも
お願いします」
「着付けも?」
「燐さんは、
ずっとあちらに
いらしたので、
着物を着るのは
初めてなんだそうです」
「そうなん?
分かったわ
うちにまかせとき」
華はとても楽しそうだ。
「まずは、着物を
選ばな話にならん
燐は何色がええ?」
「う〜ん。
青っぽいのかなぁ」
「沖田はんは燐には
何色がええと思う?」
「赤系ですかねぇ?」
何故か疑問系である。
そして暖色系と寒色系。
みごとに逆の色である。
「みごとにわかれたなぁ
こうなったら赤系と
青系二着ずつでええ?」
妥協案として
華が出したのは
いっそうのこと両方
買ってしまってはと
いうものだった。
「そうですね
そうしましょう」
なにやら燐抜きで
話が進んでいる。
此処で燐が口を開いた。
「お、沖田さん、
せめて一着ずつで
いいです……」
最後の方は
声が小さくなって
しまった。
華には外国帰り
という事になっているし、
本来は、未来から
来たのでこの時代の
お金など
当然持っていない。
よって、必然的に
沖田が払う事になる。
どちらにしても、
この時代のお金など
持っていないうえに
通貨も知らない。
どうやら、二人には、
燐の声は
届いていないようだ。
あれやこれやと、
着物を出してきて
二人で言い合いを
していると思ったら
突然声をかけられた。
「燐さんは
どんな柄がいいですか?」
「へ?」
なんとも間抜けな
声である。
「いきなり
訊かれましても……」
「じゃぁ好きな花は
何ですか?」
「あぁ、
それでしたら……
「桜、桔梗、椿……
それぐらいですね」
「それを聞けば十分です」
「お華さん、
黒地に菊柄の
着物はどぉですか?」
「それから、
この紺色に椿柄の
着物は決定です」
「これなら、
燐さんの言っていた
青色ですし、
それから、薄紫に
桔梗柄なんてどうです?」
「まぁええんとちゃう?」
「最後にこの朱色
に楓柄なんて
綺麗だと思うんですが
お華さんどう思います?」
「燐に似合いそうやな」
華は笑うのを耐えていた。
何故なら、沖田が
あまりにも張り切って
燐の着物を
選んでいるからである。
しかも見事に
春夏秋冬である。
色も、青系と赤系。
しかし何故か一つは
黒だったが。
燐ならピンクも
似合いそうだが
敢えて言わないでおこう。
買う着物も決まった所で、
沖田は財布を出した。
「お華さん。
これで足りますよね」
「足りるかって、
ぴったりやないの」
沖田は計算しながら
選んでたらしい。
「毎度、おおきに」
「燐さんお会計が
終わったので
屯所に向かいましょう」
「沖田さん!?
何時の間にお会計
したんですか?」
「燐さんが少し考え事を
している間にですよ」
「有難うございます」
燐は沖田に
お辞儀をして
お礼を言った。
「いいんですよ」
「今、どの着物着ます?
お華さんに
着付けを教わって
着て来てください」
「え……」
「その為に
買ったんですから」
「どれがいいですか?」
「じゃぁ……
朱色の楓柄の着物を」
「華、着付け教えてね」
「勿論や」
十分後……
店の奥で、華に
着付けをしてもらい、
その際にやり方も
教わった。
「どうですか?」
下向き加減で
話しかける燐に沖田は
「よく似合ってますよ」
と言った。
「ま、孫にも衣装って
感じじゃないですか?」
「そんな事ありませんよ」
内心ほっとした
燐であった。
「華、
本当に変じゃない??」
「よく似合っとるよ」
「よかった
華、有難う
またね」
「いつでも来てや」
「わかった」
こうして呉服屋を
出た燐と沖田は
屯所へ向かうのであった。
屯所である
八木邸までは、
華の店から
そう遠くなかった。
歩くこと二十分弱……
多分この時代に
時計を持ち歩くなんて
習慣はないので
あくまで多分なのだ。
屯所にしている
旧前川邸に着いた。
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