1人が本棚に入れています
本棚に追加
とある依頼
それは2日前のこと。
「ねえ黒井」
所属している演劇サークルの練習終わり。
部室で道具を片付けていると、
入り口の扉枠に寄り掛かった、一人の女子が俺に話しかけてきた。
サークルの同期で、一葉の親友でもある白川友紀だった。
彼女はいつになく、神妙な顔を浮かべながら口を開いた。
「最近、どうも変なのよ」
「ああ、なにが」
「一葉よ、一葉」
「元からだろ」
「それはそうかもだけど・・・」
彼女は奥歯にものが挟まったように言葉を濁した。
やけに思い詰めたような表情を見せる白川。
流石に、違和感を覚えて俺は尋ねた。
「なんだよ、どう変なんだよ」
そこで初めて、一葉が最近、どうも不衛生な生活をしているということを聞いたのだった。
言われてみれば、彼女の肌に小さなニキビができていたことを思い出す。
一葉は、どこか華があり、演劇サークルのヒロイン役を務めることが多い。
だからあいつもかなり気を使っていたのだろう。
見るたびにいつも、新雪のように透き通った肌をしていたのだった。
だからこそ、小さなニキビができていたのが、妙に印象に残っていたのだった。
「他の子がね、心配して一葉の家に行ったらしいのよ。
だから彼女たちに話を訊こうとしたのね、そしたら」
「ああ」
「震え出しちゃうのよ」
「ああ?」
どうも友紀曰く、一葉の部屋を見た女は、涙目を浮かべてその時の話をしたがらないらしい。
それに痺れをきらした友紀が、次に白羽の矢を立てたのが…
「俺ということか」
「そゆことー。ちょっとどうなってるか確認してきてよ」
「でもなんで。お前が直接行けばいいだろ」
「あたしは今出禁なのよ〜」
どうも、友紀は一葉の様子が変わるちょっと前に、彼女の家に行ったらしい。
その時に訳あって、出禁になったという。
ただ、その時は、彼女の部屋に変なところはなかったという。
「ということで、よろしくぅ。報酬は弾むわよ」
そして、彼女は1本指を立てた。
1万、か。
「…しょうがねえな」
「さっすが黒井!それじゃあ頼むわね!」
そして、友紀は意気揚々と部室を出て行ったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!