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七月の暮れ。
曇天から降り頻る雪は、今年に入って三度目を数えた。
夜闇の星に紛れて降り始めてから、もう二十四時間が経っている。
星も陽射しも、何もかも雪に包まれて。寄り添い合った雪の華が、国道沿いで雪だるまになって佇んでいる。
どこにも行けないまま、時々忘れ物のマフラーで締め付けられて。それでも彼は笑っていた。
まるで綺麗な石ころを拾って歩いた、小学校の帰り道みたいに。
僕もまた、彼のように在りたかった。
小さな幸せを眺めながら、ゆっくりと死に向かって溶けていく。そこに先はない。
漠然とした不安を掻き消して、「僕は僕だよ」と胸を張る、あの雪だるまのようになりたかった。
「言葉は苦手なんだ」
と若さんが言った。
彼はゆっくりと言葉を選んで話すから、いつも会話には時間がかかる。僕にはそれが心地よかった。
「だから上手く言えねぇけど、お前の雪への憧れはよくわかる」
僕は頷いて続きを待った。
僕らは通学ルート上にある公園の、冷たいベンチの上に座っている。
矛盾してしまった夏の雪を眺めてると、季節はいくつもの下地が重なってできているんじゃないかと思った。
春の暖かさに梅雨が湿度を重ね、夏が陽射しで包み込む。秋も冬も、全てはその繰り返し。同じ夏が二度とこないのは、そのせいだろう。
「でも憧れなんて持ってたら、いつまでも自分になれねぇんだよ、夏目」
白い息を夏に溢して、若さんが呟いた。
彼の言葉はいつも短かい。
けれどその分、そこには色んな考えが詰まっているような気がした。
「将来アレルギーなんて人生の一部だ。嫌ってても始まんねぇ」
「アレルギー、ですか」
僕は尋ねる。若さんは遠くの街路樹を眺めながら、無言で頷く。
「将来とか不安とか、そんなもんは隣のヤツと共有するもんだと俺は思う」
彼はいつも遠い目をした、旅人のような青年だった。
歳は二つ上。僕らの二年進級の直前に卒業して、今年から大学に通っている。
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