僕は人を殺さなかった

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 清掃時間に入る前に僕は動く。  職員室に行って、別館トイレ担当の先生に雪見のサボタージュを告げ口した。  その日は金曜日で、トイレに洗剤を蒔くから掃除が長引く。  これで雪見は、亜嶋を呼び出した時間には間に合わない。結果的に、雪見は時間になっても空き教室の前には現れなかった。 「あれ、君って雪見さんとよく一緒にいる人だよね」  代わりに現れた亜嶋が、目敏く僕を見つける。 「そう言うことになるかな」 「やっぱ訳分かんないこと言うね君ら。てか雪見さん探してんだけど」  自分の役割をシミュレートして、背筋に冷たいものが走る。  震える手で、膨らんだ封筒を差し出す。 「なにこれ?」 「雪見、先生に捕まったらしくて。先に渡しておいてほしいって頼まれたんだ」 「ふーん」  亜嶋は油断していた。  封筒を開けて、中身を取り出すまでは。 「カッター? は、これ何──」 「イタッ!?」  考える暇は与えない。  僕は掌を押さえて踞る。 「は!? お前なにやって」 「亜嶋に切られた! 誰か先生呼んできて!」 「は……待てよ、何言ってんの!?」  人だかりが出来て、そのうちの何人かが走っていく。  演技は苦手だった。だから僕は、掌の痛みだけに集中した。 「やっば、ガチじゃん」 「やめなよ亜嶋君!」 「それはマズイって」 「違うって、コイツがやったことだって!」  慌てふためく亜嶋。遠巻きに眺める野次馬。  封筒の上に踞った僕は、彼の手からカッターが離れた瞬間──
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