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いつも、答えだけを間違える
昼になって、僕らは一度別れる。
軽く昼食を取ってから僕が公園に戻ったとき、土管の上に雪見の姿はなかった。
一番小さな土管に腰を下ろして、僕は雪見について考える。
この街で雪をやませようとしているのは、たぶん雪見だけだろう。
未練だけで息をする人間がいることは、彼女の理想に反していた。
けれど、と僕は思う。
僕は雪見に現実を生きてほしかった。理想は捨てなくても構わない。ただ現実に譲歩してほしかった。
彼女が雪見蛍である限りは、息をするだけで傷付いてしまう。油も注さずに走り続けた自転車が、いずれ錆びだらけになって動かなくなってしまうのと同じように。
全力で走りながら自壊していくだけの雪見を、僕は見たくない。
──それは恋じゃないのか?
高校に上がった年、若さんに言われたことがある。
否だ、と思う。僕らが互いに告白したのは、一度や二度の事じゃない。
けれどそれは、きっと恋愛感情ではなかった。どちらかと言えば勝利宣言の意味合いが強い。
きっかけを生んだのは雪見だった。
「啓蒙って愛みたいなもんだよね」
中学三年の時だったと思う。
いつものように夕日を背負い、石ころを蹴飛ばす帰り道。
雪見が理想を並べて、僕がその一つ一つに質問や疑問を投げたあと。ふと思い付いた風に彼女が言った。
「ずいぶん押し付けがましい愛もあったものだね」
「愛なんて押し付けがましいもんでしょ?」
用水路に小石を蹴り入れて、雪見が小さくガッツポーズをする。
僕や他の人とは違った遊び方だ。
「納得がない啓蒙なんて独り善がりだよ。それって愛にも言えることだな、って」
僕はなるほどな、と思った。
けれど現実の恋愛や啓蒙も、半ば独り善がりなものとして既に成立するようになっている。
雪見がどの愛情を知っているのかは、疑問だった。
「そもそも、雪見は愛を知ってるのか?」
その言葉を吐いたのに、特に理由はなかったのだと思いたい。
雪見が首をかしげる。
「どの種類の?」
その辺りでやめておけ。冷静な僕が、頭の片隅で語気を荒げる。
僕の口は言うことを聞かなかった。
「恋愛だよ」
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